ジャンプ漫画『ワールドトリガー』なぜ展開が遅い? 『ヒロアカ』『呪術廻戦』に繋がる”全員主人公”物語

『ワールドトリガー』展開が遅いのはなぜ?

 『ワールドトリガー』(集英社)の第28巻が2月4日に刊行された。葦原大介が手掛けるSFバトル漫画『ワールドトリガー』は、2013年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載が始まり、2019年からは月刊誌の「ジャンプSQ.」(集英社)に移籍している。

 舞台は、異世界の「門(ゲート)」から現れた「近界民(ネイバー)」と呼ばれる怪物に襲われることとなった日本の三門市。ネイバーを撃退するため、三門市には界堺防衛機関(ボーダー)と呼ばれる集団が現れ、防衛体制が整えられる。主人公の少年・三雲修はボーダーのC級隊員(訓練生)として活動していたが、ネイバーの少年・空閑遊真と出会ったことで運命が変わっていく。

 本作は三雲修と空閑遊真、そして修の幼馴染の少女・雨取千佳がネイバーに拐われた千佳の友達と兄を助けるために、「近界(ネイバーフッド)」遠征を目指す物語だ。3人は玉狛支部の隊員となり三雲隊(玉狛第二)を結成。遠征部隊に参加するためにA級昇格をかけたランク戦にオペレーターの宇佐美栞と共に参加する。

 異世界から攻めてきた謎の敵と戦う少年たちの戦いを描いた『ワールドトリガー』はSF戦争漫画だが、劇中で比重が置かれているのは、ボーダー内での隊員たちの昇格戦であり、その様子がeスポーツのように描かれているのが、大きな特徴だ。

 修たちボーダーの隊員はトリオンと呼ばれる生命エネルギーを戦うための原動力としており、トリガーと呼ばれるトリオンによって生み出された武器を駆使して戦う。また、戦闘時にはトリオン体という戦闘用の身体を作り出して戦うのだが、このトリオン体の身体がダメージを受けて活動限界を超えると緊急脱出(ベイルアウト)という脱出機構が自動的に発動し、隊員の身体を基地に送還させることができる。

 本作のバトルは戦略性が高く、敵側の武器や地形の変化によって戦況が大きく変化する。バトル漫画の一番の見所は弱者が知恵を駆使して強者に勝つ場面にある。本作の主人公・三雲修はトリオン量の少ない弱小隊員だったが、高い戦闘力を持つ空閑と千佳を戦略的に活かす頭脳派の隊長として頭角を表し、やがて彼なりの戦い方を身に着け、ランク戦を勝ち上がっていく。

 また、三雲隊の他にも多数の隊員が登場するのだが、どの隊員も魅力的で、各キャラクターの能力や人間的魅力が均等に描かれているため、全員主人公と言える状態に近づいている。

 昨年連載が完結した『僕のヒーローアカデミア』や『呪術廻戦』を筆頭に、近年のジャンプ漫画は設定がゲームのように複雑で、特殊能力を持った複数の登場人物が主人公と同じ水準で描写する全員主人公状態が進んでいる。この複雑な設定の元で展開される全員主人公のジャンプ漫画の嚆矢となったのが『ワールドトリガー』だったのではないかと思う。何より本作が素晴らしいのは、全員主人公という面白い漫画を成立させるアイデアの中に「誰もが主人公になれる」というメッセージが込められていることだ。

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