『怪獣8号』は正義を描き切れるか? 『呪術廻戦』『デビルマン』の展開から考察

「怪獣8号」は正義であり続けられるか

 世間が害悪と見なして恐れる怪獣になってしまった中年男の日比野カフカが、怪獣ならではのパワーを正義のために使って怪獣を倒そうと奮闘する。

 松本直也の漫画『怪獣8号』(集英社)は、カフカが正体を隠そうとしてあたふたするコミカルな様や、怪獣を相手に振るうパワーのすさまじさが目下の読みどころだが、気になるのは人間を超越した存在となったカフカが行き着く先。鬼に堕ちなかった『鬼滅の刃』の竈門禰豆子や、宿儺を抑え続ける『呪術廻戦』の虎杖悠仁のように正義を貫き通せるのか。それとも『デビルマン』の不動明のように人間を憎み始めるのか。

 これで終わりとなる吾峠呼世晴『鬼滅の刃』(集英社)の第23巻が積まれた12月4日の書店に、これから始まる物語も並んだ。同じジャンプコミックスから登場した『怪獣8号 1』だ。『鬼滅の刃 23』や『キングダム60』(集英社)、『進撃の巨人33』(講談社)といった人気シリーズが上位を占めたRakutenブックス漫画週間ランキング(11月30日-12月6日)では、新シリーズとして最上位の36位に入って人気のほどを見せた。

 物語の舞台は、怪獣が発声する世界の国々でも、とりわけ発生率が高く“怪獣大国”と呼ばれる日本。怪獣を相手に戦う防衛隊が組織されていて、人のためになる仕事であり、怪獣を倒す姿もカッコいいことから、憧れの職業になっている。討伐大学や討伐高専といった入隊を目指す人たちの学校も作られているほど。そんな防衛隊員に、32歳の日比野カフカという中年男が挑戦するのが、『怪獣8号』の導入部分のストーリーだ。

 カフカは過去に何度も防衛隊を受験していたが、その度に不合格になり続けていた。年齢制限が来て受験資格を失ったカフカは、それでも怪獣討伐に関わる仕事がしたいと、退治された怪獣を除去する清掃会社で働いていた。「清掃だって人の役に立つ大事な仕事だ」「立派な部屋に住んで好きなもん食えてる」。そう自分に言い聞かせながらも、納得し切れていないカフカに朗報がもたらされる。33歳まで年齢制限が引き上げられたのだ。

 小学生だった頃の幼なじみで、今は27歳にして防衛隊第3部隊を率いる隊長として戦っている亜白ミナの横に立てるかもしれない最後のチャンスに挑む中年男。なんとも燃えるシチュエーション。子供の頃や学生時代に抱いた、大人になったらやってみたいことを自分は実現できているか。才能が足りなかった、努力不足だったと自分を納得させていないか。そんな、諦めきれないでいる気持ちがカフカを通して奮い立つ。

 もうひとつ、カフカの身に起こったとてつもない事態が、人間なら誰しも抱く強くなりたいという気持ちを誘う。今一度、防衛隊員を目指すと決意したカフカの前に小さな怪獣が現れ、「ミツケタ」と喋ってカフカの口に飛び込んだ。変貌が起こった。カフカが人型ながら怪獣のような姿になってしまった。このままでは防衛隊に討伐されかねないと逃げ出したカフカの前に新しい怪獣が出現して、人間の親子を襲おうとしていたその時。カフカのパンチが炸裂して怪獣が木っ端みじんに粉砕される。これ実にカッコいい!

 普通では考えられない強い力を振るえるようになることと、年齢を重ねて諦めていた憧れに近づくこと。これ加えて、好意を抱いている女性から認められることまで可能になっていくカフカに憧れ、かなわなかった夢がかなっていく展開に感動して、『怪獣8号』という漫画を好きになる。そういったことが、今の人気ぶりの背景にありそうだが、ここで気になることがある。物語が痛快で感動的なままでいられるかだ。

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