桜木武史×武田一義『シリアの戦争で、友だちが死んだ』対談 戦地の日常生活が教えてくれたこと

桜木武史×武田一義が語る『シリアの戦争で、友だちが死んだ』

 1月20日に発売された『シリアの戦争で、友だちが死んだ』は、フリージャーナリストの桜木武史の取材をもとに、彼の文章と漫画家の武田一義によるコミックで構成されたノンフィクションだ。複雑なシリア情勢や戦地での体験など、シリアスな内容を子どもから大人まで幅広い読者に向けて綴った一冊となっている。

 著書『【増補版】シリア 戦場からの声』やTBS『クレイジージャーニー』の出演歴を持ち、ジャーナリストの傍らトラック運転手の仕事も兼業している桜木武史。青年漫画誌『ヤングアニマル』で、太平洋戦争末期のペリリュー島での戦いを描いた作品『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を連載中の武田一義。ジャーナリストと漫画家。ともに戦争を語る者として、戦地での暮らしや戦地に生きる人々など、報道では語られない戦地の様子をリアルに描く。

 日本では戦争体験を語れる人が少なくなってきているが、同じ地球上で、今も戦争を繰り広げている地域があることを忘れてはならない。桜木武史はなぜ、戦地取材を続けるのか。戦地の話を聞いて、武田一義は読者に何を伝えようとしたのか。二人と担当編集者の話から、本作を上梓した意義を考えていく。(とり)

報道の隙間にある戦地の現状

桜木武史氏

――桜木さんと武田さんは、本作で初めてご一緒されたと思うのですが、今回の依頼がきたときの印象を教えてください。

桜木:僕は今まで、子どもにも分かるような伝え方をまったくしてこなかったので、担当編集の長谷川さんから依頼をいただいたときは是非という気持ちで受けさせていただきました。武田さんとお会いする前に『ペリリュー』を読ませていただいたのですが、作中に描かれていることが、実際にシリアやカシミールで体験したことと強く重なって、日本にいながら、まるで戦場に行ったことがあるようなリアルさで漫画を描かれていることに、とても驚きました。お会いしたときも、戦場で体験したことをお話しすると、すぐに的を射てくれて。普通の人には1から10まで説明しなければ伝わらないようなことも、1から5までの説明で理解してくれる不思議な感覚でした。やはり『ペリリュー』を描かれているのは強いな、と。

武田:僕は長谷川さんから依頼をいただいたとき、失礼ながら桜木さんのことを存じ上げていなかったのですが、桜木さんの著書や『クレイジージャーニー』の映像を拝見させていただいて、新聞やテレビなどの後ろ盾もなく、完全にフリーの状態で戦場に行っている日本人の方がいることを知りました。一緒に仕事がしたいというよりも先に、桜木さんに会ってお話を聞いてみたいという気持ちが強くなり、実際にお会いしたときも、物腰の柔らかさにすごく惹かれましたね。『クレイジージャーニー』を観たときから、すでに柔らかい印象を感じていましたが、実際にお会いしてもその印象は変わらず、丁寧にお話ししてくだって。戦場で体験されていることの厳しさと桜木さん自身のパーソナリティにギャップがあるのがとても興味深かったです。

――本作は、「シリアの戦争」というシリアスで複雑なテーマを子どもでも理解できるように描いた内容となっています。制作する過程で意識したことは?

桜木:担当編集と相談しながら、くだけた表現で柔らかく書くことを意識しました。普段記事を書くときは、戦争に関心がある人に向けて、これだけの情報があれば分かる人には伝わるだろうという感覚で、簡潔に書いていたんです。ですが、今回は戦争を知らない子どもたちにも向けて、ということなので。シリアの情勢は、単純にどちらが敵で、どちらが味方でという話ではなく、それぞれの信条があって戦争をしていますが、それを子どもに説明するのって難しいじゃないですか。あまり説明的な文章が続いても、深く読んでもらえないと思いますし。その点は、武田さんのイラストがうまく伝えてくれたと思っています。

武田:僕は、子どもにも伝わるようにという理由で描き方を変える意識はなかったですね。そもそも漫画自体が、戦争に興味のない人や子どもでも読みやすい敷居の低いものだと考えていますので。ただ、桜木さんが書く文章には、無意識に削ってしまっている感情や情報があると思ったので、文章から漏れている部分を拾って描くという点は意識しました。『ペリリュー』を描くときもそうですが、証言にあることが全てではないと思っているので、自分の想像も織り交ぜながら「こうじゃないですか?」と提案する形で描くようにしています。それこそが、僕が介在する意味だと思っているので。

桜木:僕の場合、普段は現地で見たこと、聞いたことを伝えるのが仕事なので、著書でもあまり自分の感想や主観的なことは書かないようにしています。なので、今回主観的な部分を描くことができたのは、企画してくれた長谷川さんと、感情を拾い上げてくれた武田さんのおかげです。どの部分を漫画で描くかというチョイスも絶妙で。

長谷川:桜木さんはジャーナリストとして、普段は事実を整理して伝えられていますが、今回は「事実の隙間」にある人間的な部分を伝えたかったんです。桜木さんが現地でどう感じたのか、現地のシリア人はどう感じているのかなど、感情が動く部分は漫画で描いた方が子どもたちにも伝わると思い、選ばせていただきました。また、雑談のなかから、武田さんが「これは絵で伝えた方がいいんじゃないか」と漫画家視点で選んでくださった部分もあります。

武田:桜木さんのように、実際に現地で戦争を体験された方って日本人では少ないですよね。なので、純粋に報道やニュース映像では見られない部分を聞きたいなという思いが強かったです。生きていくために必要な「食べる」「飲む」「寝る」といったことはどうしているのか? そういう基本的なことがまず分からないですよね。ご飯はちゃんと食べられているのか、どれくらい眠れているのかによって、疲れ方や精神状態も変わりますし、人の描き方も変わります。あえて報道されるような情報ではないですが、漫画として描くうえでは必要な情報だと実感しました。

長谷川:「トイレやお風呂はどれくらいの頻度で行かれるんですか?」といった質問もされていましたよね。まさに子どもが感じるような素直な疑問が本作には反映されていると思います。

――戦地での生活の様子や兵士の会話など、細かい部分が描写されているおかげで、戦地のシリア人の人柄が見えるのは、報道では知り得ないことなので新鮮に感じました。そのような“生”の部分も印象的でしたが、対して“死”を描く点では何か意識されましたか?

長谷川:あまりに無残な写真や表現はあえて避けました。“死”は戦争に深く関わることですが、過度にそれを前面に出すことは、戦場を恐ろしがらせることはできても、身近に思ってもらうという本作の意図からずれてしまう気がしました。

武田:僕が人の死を直接的に描いたシーンはスナイパー通りの部分だけでなのですが、ここは桜木さんが実際に目撃した場面ではないので、あえて感情を入れこまない「客観的映像」として描写しました。無残な事実ではありますが、読者の方のショックも必要以上に重くならないはずなので、読みやすいのではないかと思います。

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