桜木武史×武田一義『シリアの戦争で、友だちが死んだ』対談 戦地の日常生活が教えてくれたこと

桜木武史×武田一義『シリアの戦争で、友だちが死んだ』対談 戦地の日常生活が教えてくれたこと

戦地の日常と日本の平和

武田一義

――本作で驚いたのが、桜木さんの取材に行くまでの思い切りの良さです。

桜木:当初からそうでしたね。大学を卒業した後、バイトしてお金を貯めて、つてのない状態でカシミールに行きました。若かったし、なんとかなるだろうみたいな感覚で。

――もともと戦場ジャーナリストに憧れがありましたか?

桜木:高校生の頃、担任の先生がジャーナリストの本多勝一さんが好きだった影響で、教室の本棚に置いてあった本多さんの本を読みました。そこでベトナム戦争やカンボジア大虐殺の本を読んだとき、遺体の写真も載っていて、同じ地球上にこんな世界があるのかと衝撃を受けたんです。そこから書籍や映画を通して、戦争について知っていきました。本多さんのようなジャーナリストになりたいと憧れはしたんですけど、新聞社や出版社を受けることなくフリーになって、とりあえず戦場に行ってみようと思い、飛び出しました。経験や実績がなくても、体さえ張ればなんとかなるだろうと思って……。

――本書でも描かれていましたが、戦場で顎を銃で撃たれてもやめなかったことに驚きました。

桜木:一ミリずれてたら死んでたかもしれないと考えると、死ななかっただけ運が良かったと思っていたんですが、逆方向にずれてたら撃たれなかったので、「運が悪かった」とも捉えられるんですよね。でも、凄く酷い状態だったのに、同業の人たちは「元気になったらまた取材に行ける」と平気で言うので、自分でもまた行けるという気持ちになりました。回復後、またカシミールに行って、現地にいる友人に「あのとき助けてくれてありがとう」と言ったら「なんで俺に礼を言うの。助けてくれたのはアッラー(神)だよ」って言うんです。「カシミールでは罪のない人々がたくさん殺されているのに、自業自得で戦場に来た自分がなぜ助かったのか。なぜ神は罪のない人々を助けなかったのか」と聞いたら、「それは神にしか分からない。でも、タケシが生きていることには、何か意味があるはずだ」と。戦場で多くの不幸を目の当たりにして、自分も撃たれて、でも生きている。何か意味があるのだろうか?と考えたときに、きっと取材を続けるために生かされたんじゃないかと思いましたね。

――戦地に行って行動を共にしたからこそ、聞き出せた言葉ですよね。桜木さんの場合は実際に撃たれた後ですし……。そして、そういった戦地では、ジャーナリストが歓迎されるということを本書で初めて知りました。

桜木:住人たちの「この悲惨な現状を伝えてほしい」という想いは強いですね。でも本書にも書きましたが、住民とは逆の立場の側は嫌がって、厳しく取り締まっています。

――そもそも中東には、客人をもてなすという文化が深く根付いている印象を受けました。

桜木:あると思います。そこには外国人を寛大に歓迎しようという国民性があるのだと思います。ちょっと見栄もあるのかもしれませんが(笑)。自分はシリア、レバノン、トルコくらいですけど、特にシリアの人たちは、色々ご馳走してくれたり、家にも招待してくれたり、とても優しかった記憶がありますね。現地では、1週間も前戦にいると気が滅入ってしまうので、他の部隊とローテーションしながら、5〜6日前戦に行って、村で5〜6日休んで、また前戦に行くのですが、前戦に行く前日と前戦から帰ってきた日の夜は豪華な肉料理をご馳走してくれました。

――また戦地で結ばれる絆って、やはり違うと思います。最後、現地の人たちと別れるシーンでは、日本に帰る桜木さんに対して、彼らは戦争という日常に戻っていくという明暗対比がとても切なかったです。

桜木:自分には帰る場所がありますが、彼らはそこで生活しているので。残る道は戦場に行くか、祖国を捨てるか。自分は帰る場所があるのに、取材できてしまうことに負い目を感じることもあるんですが、彼らは「気にするな」と、仲間として扱ってくれるんです。彼らとの絆は、昔からの友達のようです。プライベートは一切ないですし、生き死にがかかっている緊張感もあるという環境がそう思わせるのかもしれません。

――テレビや新聞の報道では見えない部分、冒頭で長谷川さんが仰っていた「事実の隙間」であり、本作の意義だと感じます。このように、実際に体験された内容が忠実に描かれていながら、そこに武田さんの漫画が加わることで、シリアスすぎずフラットに読める点が本作の魅力だと感じました。桜木さんと武田さんから、読者の方に注目してもらいたいポイントはありますか?

桜木:「平和は貴重」だということですね。今は世界中が新型コロナで大変な時代ではありますけど、日本で暮らしていると当たり前のように平和を享受することができますよね。けれど、戦地に行くと平和の貴重さを強く実感するんです。「戦争なんてやめてくれ」と言うことすらもおこがましいというか。一度戦争が起こってしまったら、もうどうしようもないんですよね。

武田:桜木さんの仰るとおりで、僕も含め、ほとんどの日本人がシリアに行ったことがないですし、シリアに知り合いもいないですよね。でも、桜木さんは実際にシリアに行って戦地の生活を体験されている。遠い国の話ではありますが、今起きていることとして桜木さんを通して、自分自身に近づけて考えてもらえたら嬉しいです。

 ■書籍情報
『シリアの戦争で、友だちが死んだ』
桜木武史 著
武田一義  画
定価:1,650円(税込)
出版社:ポプラ社
公式サイト

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