人類はチーズケーキで滅亡する? SF作家たちが考える“人類滅亡のトリガー”とは
未曾有の年となった2020年が終わった。しかし、新年を迎えても新型コロナ感染拡大は収まる気配がなく、希望の感じられない年明けとなっている。1月6日の深夜に放送された、第2回『世界SF作家会議』はそんな世相にある意味ふさわしいものだったかもしれない。
本番組は2020年7月に第1回が放送され、「アフターコロナの未来」というテーマでSF作家たちが議論した。2回目の放送となった今回のテーマは、「人類は〇〇で滅亡する」。SFにとってポピュラーなテーマである人類の滅亡について、日本と世界のSF作家たちが意見を交わしあった。
今回の番組参加者は、第一回から引き続きの参加となった新井素子、藤井太洋、小川哲の3人に加え、2020年に『首里の馬』で芥川賞を受賞した高山羽根子も参加。さらに、『三体』の世界的ヒットで世界的に注目を浴びる劉慈欣と、『紙の動物園』で知られるケン・リュウ、『わたしたちが光の速さで進めないなら』が日本でも出版された韓国の新鋭キム・チョヨプらもVTRで参加した。
世界と日本を代表するSF作家たちは、人類の最期をどのように想像しているのか。番組を振り返ってみよう。
人類の滅亡理由、SF作家たちの考えは…?
本番組はコロナ禍での開催のため、各作家をリモート中継でつなぐ形で行われた。司会を務めるいとうせいこう氏が、コロナと世界の現状について小川に質問すると、小川は「コロナによって生活は一変した。コロナの流行当初に抱いていた希望的観測の通りにはいかず、いくつかの物事は元には戻らないのではないか」と語った。新井は日本と外国のコロナへの対応を比較し、「日本では災害や疫病はやり過ごすものという認識が多いが、いくつかの外国ではコロナに打ち勝とうとしている。疫病に対してそういう考えがあることに感動した」とのことだ。
話題は、本番組のテーマである「人類は〇〇で滅亡する」に移る。参加者それぞれが滅亡要因をパネルで提示し、一つずつディスカッションしていく形式で進行した。
最初に発表したのは小川。回答は「人類はチーズケーキで滅亡する」という、一見するとトリッキーなものだった。しかし、小川の主張は非常に明快。小川は、チーズケーキとは自然界に全く存在しない極めて人工的な味だと言う。人類はそういう人工的なものを数多く作り、社会制度さえも動物の本能から逸脱してきている。社会制度が生存本能から外れたものが増えていく先に人類の滅亡があるということの比喩が「チーズケーキ」であり、小説家らしい、ユニークな表現と言える。小川は、その帰結として、日本の少子化問題などがあると言い、これは人類を動物として考えた場合には致命的な現象ではないかと語った。
それに対して新井は、生物の本能から人間が外れてきているという考えに賛同しつつ、少子化は逆に救いかもしれないと語る。生物のピラミッドの頂点にいる人類が増えすぎてしまうのは歪な状態であり、人類の生存本能が少子化を求めているのではないかという見解を披露した。
続いて、VTRで劉慈欣とケン・リュウの考えが紹介される。劉慈欣は、人類滅亡の要因は大きく分けて2種類、人類自身による災厄か自然災害による災厄であるとし、人類は自然の災厄にはかなわないだろうと主張した。逆に核兵器など、人類自身が引き起こす災厄は、人は理性によって克服するだろうと考えているようだ。
これに対してケン・リュウは、人間は意外と打たれ強いのでパンデミックや気候変動などのでは滅びないのではないかと語る。そして、人類は歴史上初めて自らの力で進化の過程を進めることを可能にし、テクノロジーによって今よりも賢いポストヒューマンになるだろう、その進化が望ましい方向ならば人類滅亡はむしろ喜ばしいことではないかと主張した。
中国とアメリカの大作家の言葉を聞き、藤井はそれぞれの発言が作風に沿っていることに感動したようだ。続いて発表したのはその藤井と高山で、2人はともに「人類は愛で滅亡する」と回答。2人の結論は同じものだが、愛についての見解が実に対照的であった。