『カッコウの許嫁』作者・吉河美希が語る、読者の共感を呼ぶ漫画表現 「〈あんなこといいな〉という憧れを描きたい」
「最近、女の子3人組のアーティストが好きって気がつきました」
――ここからは吉河先生ご自身についてお聞きしたいのですが、作品を描いている時はどのような環境なのですか?
吉河:音楽をかけています。『山田くんと7人の魔女』までは、棚にCDがブワーってあって、アシスタントが順番にかけたい曲をチョイスしていく感じでした。それも、みんなでCDショップに行ってそれぞれのオススメを選んでもらったものなので、いろんなジャンルがありましたよ。邦楽から洋楽、演歌もありました(笑)。最近は、 定額制の音楽ストリーミングサービスで本日のピックアップみたいなのを再生していますね。
――このシーンを描いたときに、この音楽が流れていたな……といった記憶は?
吉河:ないですね。本当にBGMとして流れているという感じなので。そのなかでも個人的にゲームのサウンドトラックを聴くと、めちゃくちゃ集中力が上がるんです。1人でワーッて描きまくっているときは、ボス戦の曲とか聴きまくってます。あと、気づいたんですけれど、私、女の子3人組のアーティストが好きなんですよ。Perfumeとか、BABYMETALとか。気づいてなかったんですけど。3人組の女子好きだなっていう。
――なんと! 繋がっていますね。
吉河:グッとくるものがあるんでしょうね。もちろん曲も好きなんですけど、3人の関係性が好きなんです。
――音楽以外にも、例えば小説や映画など刺激を受ける作品はありますか?
吉河:映画をよく見ますね。邦画だと『南極料理人』が好きで、定期的に見返しています。
――あの作品も料理の描写がありますね。
吉河:確かに、あれもご飯ですね。それから空気感とかテンポがすごく好きで。洋画だと『LIFE!』とか『インターステラー』とかが好きです。あと、アメリカの連ドラもめちゃめちゃ好きです。最近観ているのは『THE BLACKLIST/ブラックリスト』です。色々斬新というか。映像がめちゃめちゃ綺麗ですし、BGMがすごくいいんですよね。基本的には、話題になった海外の連ドラはチェックしています。
――そういうお時間はあるんですか。連載されてる時って。
吉河:寝る前に観て気づいたら寝落ちしてるみたいな。3分しか観てないってこととかもあります(笑)。
――脳を休めてくらいの感覚なんですかね。
吉河:そうなんですかね、私、どうやって漫画描いてるんだろう(笑)。ネームのときは出てきたセリフを、コマ割って吹き出しの中にガーッてシャープペンシルで書くのに必死で、原稿に入るとキャラの表情と構図や配置のことしか考えていないので、他に何も入ってくる余地がないんですよ。
「心が、ずっと男子中学生のままなんです」
――先ほど最近の10代の話になりましたが、ご自身はどんな学生だったのでしょうか?
吉河:バスケ部で、主にポイントガードをやっていました。カットして速攻で点数逆転するみたいな。家の中より、外に出かけるほうが好きなタイプでした。そんな中、友達の影響で漫画を読むようになりました。それが少年漫画だったという。そこからは、ずっと少年漫画ばかり読んでましたね。わかりやすいじゃないですか、手からバーンって何か出たり、事件が起きて解決したり。
――具体的にはどんな作品を読まれていたのでしょうか?
吉河:当時のマガジンだと『金田一少年の事件簿』とか『GTO』が好きでしたね。友だちに勧められて読んだら「おもろ!」って、すぐに夢中になりました。だからといって「漫画家になる!」なんてことは全然考えていませんでした。当時は、何かやりたいというものが特別なくて、ただ洋楽とか洋画が好きだったので、海外に仕事で行けたらいいなみたいな漠然としていました。だから、気づいたら漫画家になっていました。ふと描いてみようかなみたいな感じで描いて。「描いて満足した」みたいな感じで、海外に行こうとしたら「賞を獲ったので、描きませんか?」って言われて、「はい、じゃあ描きます」となり、今に至ります。
――才能としか言いようのない展開ですね。でも、先ほどのお話だとバイオレンスや事件には夢中になっていましたが、ラブコメについては……?
吉河:最初に投稿したのもSFみたいな感じですし、ラブコメの要素なんて一切ないです。その後、漫画家の卵をやっているときも、ラブコメは一切描いていなかったんですけど、担当さんから「ラブコメだけを集めた増刊が出るから、描いてみない?」と言われて初めて「えー! ラブコメって何を描けばいいんだ!?」って感じで、生まれたのが『ヤンキー君とメガネちゃん』でした。
――ラブコメ作品に触れてこなかったことで逆に先入観や前知識なしで、柔軟に描けるのかもしれないですね。
吉河:そうかもしれません。私の中で好きな作品はあくまで「好きな作品」なので、目標とか憧れにしたくないんです。読者として作品を愛していたい。だから「○○先生のような作品を作りたい」というのはないんです。「自分はどんな作品を生み出せるのか?」そこに挑戦しています。
――先ほど、キャラクターが思わぬ方向に動き出すとおっしゃっていましたが、ご自身の人生も……。
吉河:全然予想通りになんていかないです(笑)。気づいたら漫画を描いていて……、サイン会を海外で開いていただいたので、一応その辺の夢は叶ってるのかな(笑)。学生時代の自分よ、これでなんとか納得してくれ、という気分です。
――ここから先の目標はありますか?
吉河:健康で楽しく漫画を描けていたら最高ですね(笑)。あとはゲームが好きなので、そのための時間があれば。私のプレイスタイルは 1回クリアしても、いかにボスを早く倒すかみたいなタイムアタックとかしちゃうタイプなんで。『バイオハザード』も最初から最後まで、いかにヘッドショットだけしてコンボを繋げていくかみたいなチャレンジを自分に課して、やり込むのが好きなので時間がかかる(笑)。
――なんだか少年が抱く夢のような生活ですね。
吉河:私の心にはずっと男子中学生がいるんだと思います。いい加減大人になりたいんですけど、どうしてもダメですね(笑)。
――だからこそ、主人公をドキッとさせるようなハプニングも魅力的に描けるのでしょうか。
吉河:あれが私の中にいる中学生が憧れるシチュエーションの限界で(笑)。もしかしたら読者のみなさんの中にはもっと刺激の強い描写を求められる方がいるかもしれませんが、のレベルに合わせていると思って見守っていただけると嬉しいです!
――なるほど(笑)。では、最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。
吉河:本当にいつも応援ありがとうございます。本当に感謝しかないです。書店の特典ポストカードを楽しみにしてくださっている方がたくさんいらっしゃること、早く読みたくて初日に急いで買いに行ってくださっている方もいらっしゃること、キャラクターを好きになって応援してくれたり、ストーリーや展開に一喜一憂してくださることに、すごく力をもらっています。最初ポストカードは、本当におまけというか、カラーの練習として「いつも描いてない絵を描くいい機会かな」くらいに思っていたんですが、だんだんそうもいかない雰囲気になり……(笑)。もっと喜んでいただきたいと思い、もはや修行レベルで気合が入ります! 以前はTwitterでもデジタルの練習を兼ねて落書きをアップしていたんですが、最近は放置気味ですみません。デジタルが本職になってしまったもので(笑)。この先、もっといろんな形でお返しができるよう、たくさん計画していることもありますので、楽しみにお待ちください。これからも、よろしくお願いいたします!
■書籍情報
『カッコウの許嫁(4)』
吉河美希 著
価格:本体450円+税
出版社:講談社
公式サイト