大今良時『不滅のあなたへ』は“すべてが記録され、複製される時代”の寓話となる

アニメ化『不滅のあなたへ』今読むべき理由

 京都アニメーションによる映画化が話題になったマンガ『聲の形』の次の作品として大今良時が「週刊少年マガジン」で連載中の『不滅のあなたへ』は、2020年10月からのTVアニメ放映が発表されている。その魅力を形容するのは簡単ではないが、とても引き込まれるものであることは間違いない。

※以降、ネタバレ注意

あらすじの説明でおもしろさを伝えるのが難しいタイプの作品

 どんな話なのか? まず、球体が誕生する。球体は刺激を受けるとその物体をコピーしてつくりだし、生物の姿を模倣する能力を持っている(ただし、生物はオリジナルが死ぬまでコピーすることができない)。

 球体はまず、ある少年の飼っている狼となっていっしょに行動し、その少年が死ぬと、その少年の姿になって歩き続け、行く先々でさまざまな人と出会い、徐々に人間としての感情と能力、常識を身に付けていく。そして何度死んでも蘇ることから「フシ」という名前を与えられる。

 フシの目的は「世界を保存すること」だと謎めいた黒服の男から教えられるが、「世界を保存する」とはどういう意味なのかまでは教えてくれない。『不滅のあなたへ』は、何も知らないフシが人々と出会い、別れ行くなかでアイデンティティを探求し、生の意味を求める物語である。

 フシは不死身であり、お金や食べ物を無限に複製でき、姿を変えられる能力ゆえに、さまざまな人物がそれぞれの思惑を持って近づき、利用しようとする。そんななかでも信じられる存在を見つけ、フシはそういう人たちを守るために生きようと願う。

 ところが、フシを殺してフシが保存した人物を、その人に関する記憶ごと奪っていく「ノック」と呼ばれる謎の敵が現れ、フシと、フシが守ろうとする人間たちを襲う。フシは自分のせいで人間たちが傷つくことを嫌うが、ノックが襲ってくる以上、戦いは避けられず、周囲にいる人たちは必ず巻き込まれる。攻撃の手は徐々に強まり、戦闘は大規模になっていく。

 ノックを退けるため、フシは自らの複製能力を拡張し、さまざまな利害関係を持つ多様な人間たちと協力しなければならなくなっていく。一応こういう筋立てだが、未読の人にこう伝えたところで、どんな話なのかも、何がおもしろいのかもよくわからないだろう。

先行作品の記憶を呼び起こしつつも、どれとも違う

 本作は「生きるとは?」「記憶とは?」「死とは何か? 何をもって死とみなすのか?」「人はなぜ争い、誰かを守りたいと思うのか――どうせいつかは誰もが死に、忘れ去られていくのに」「人間とは?」といった問いを多面的に投げかけてくる作品である。

 その過程で、いくつもの過去の名作の記憶を刺激する。不死者が戦うさまを描いたマンガといえば沙村広明『無限の住人』がすぐに思い浮かぶだろう。さまざまな時代と場所を壮大なスケールで描いていく手つきからは手塚治虫『火の鳥』を思い出すかもしれない。人間に寄生してフシと人類にコミュニケーションを試みてくるノックの姿は、岩明均『寄生獣』を思わせる。

 フシは人間のみならず狼や熊、モグラやフクロウにも変身し、無数の武器・火器を使ってノックと戦うが、その様子は大今がコミカライズを手がけた冲方丁『マルドゥック・スクランブル』のウフコックが、ふだんはネズミの姿だがさまざまな兵器になることができたことを想起させる。フシは人間のために戦うが、その異形さゆえに「悪魔」扱いされることからは永井豪『デビルマン』を連想せずにはいられない。

 人間に擬態して成り代わる生きものの物語といえばジャック・フィニイ『盗まれた街』以来、無数に描かれてきたが、筆者がこの作品ともっとも近いと感じた作品は、不死の生物がさまざまな生物になりきって地球のことを学び、人類の感情や振る舞いを学んでいくジョー・ホールドマンのSF小説『擬態』である。

 しかしさまざまな作品が参照項として浮かび上がるものの、どうやらそれらいずれとも異なる地点をめざしているのだろうことが、読み進めるうちにわかってくる。

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