『鬼滅の刃』最終話の謎ーー『不滅のあなたへ』との共通点から探る、永遠/記憶の希求

『不滅のあなたへ』から考える『鬼滅の刃』

※本稿は『鬼滅の刃』最終話のネタバレを含む

 自分は物書きという職業を生業としている。なぜ、自分は書きたいのだと、ふと思うことがある。

 「書を残し、知をつないでゆくことで人類は発展してきたのだ」などと大層なことも考えはするが、僕の戯れ言がどう役に立つのだと聞かれたら、返す言葉もないし、なによりそんな壮大なことのために、この仕事をしているのかと言われると、きっとそこまで高い意識は持っていない。

 ただ、世の中に自分の痕跡を少しでも残しておきたい、忘れられたくないという気持ちで僕は物書きをしているのだと思う。自分の書いたものが永遠に残らないとしても、誰かの心にわずかばかりの痕跡が残ればいい。その小さい可能性にかけて、いつもなけなしの頭を振り絞って原稿に向かっている。

 あらゆる人には、そういう「永遠」を希求する気持ちが少なからずあるのだと思う。最近、大今良時の漫画『不滅のあなたへ』を読んで、「永遠」とは何かを考えさせられた。同時に、もう一つ近年の漫画で「永遠」について考えさせる漫画があったことを思い出した。人気絶頂のうちに連載終了した『鬼滅の刃』である。どちらも「滅」という漢字をタイトルに使用していて語感が似ているが、それ以上にいろいろな共通点がある。そして、この2つの漫画は、僕はなぜ書くのか、さらには人はなぜ書いて記録を残すのかについての答えを与えてくれた気がしたのだ。

『鬼滅の刃』の最終話はなぜ現代だったのか

 『不滅のあなたへ』は、『聲の形』で話題となった大今良時の最新作だ。主人公は不老不死の肉体をもつフシという。この主人公は彼とも彼女とも、人とすら記述できず、ただ「存在」としか書きようがない。物なのか生物なのか、それとももっと曖昧な概念のようなものかもしれない。フシは、始めはただの『球』だった。その球は、世界のあらゆるモノをコピーして模倣する性質を持っている。外部から強い刺激を受けることで模倣できるようになるのだが、石だろうと狼のような動物だろうと、人間だろうとコピーしてその姿に変化できる。

 本作は、そんな謎の存在であるフシが、人間の姿を獲得し、徐々に自我を芽生えさせ、多くの人間と触れ合い、世界を知っていく物語だ。フシは黒いローブを着た「観察者」と名乗る人物から、お前の目的は「世界を保存すること」だと言われる。この観察者が何者なのかフシにもわからないが、フシは多くのモノを保存し、記憶に収めていく。そして、ノッカーと呼ばれる、記憶を奪う謎の生命体との戦いが描かれ、12巻で第一部「前世編」が終了、舞台を数百年後の現代日本に移して、13巻から「現世編」が始まっている。実は、この現世編を読んでいるときに『鬼滅の刃』を思い出したのだ。

 『鬼滅の刃』は、大正時代の日本を舞台にした作品だったが、最終話のみ唐突に現代日本が描かれた。『鬼滅の刃』はなぜわざわざ現代のエピソードを持って締めくくられたのだろうか。大ボス鬼舞辻無惨を倒し、大正時代のまま大円団では駄目だったのだろうか。

 『鬼滅の刃』は永遠の命を得ようとする鬼舞辻無惨に、限りある命しか持たない人間たちが挑み、これを打倒する物語だった。永遠の命を求める悪役を倒すために、多くの命が犠牲になるこの物語は、一面的には永遠を否定しているかもしれない。鬼は永遠を求め、主人公たち人間は刹那を生きようとしている。

 仮に大正時代だけで『鬼滅の刃』が幕を閉じていたら、永遠は否定されたのかもしれない。しかし、最終話で描かれたのは、無惨が求めたのとは異なる永遠の形だった。

 現代編に登場するのは、生き残った主要キャラクターたちの面影を残した子孫たちの日常だ。そして、亡くなったキャラクターたちも、輪廻転生であろうか、そっくりなキャラクターたちが登場する。人は個としての命は有限だが、子孫という形で自分の一部を残すことができる。それはある種の永遠性ではないだろうか。そして、輪廻転生という仏教の思想は、命は滅んでもまた再生されるという、遺伝子を残すこととは別の形の永遠の在り方を示しているとも言える。

 そして、最後のコマで描かれた、鬼殺隊の集合写真と炭治郎の耳飾り。個人の命は潰えても、写真という記録は残る。人類は、最初は洞窟壁画で、次に文字で、それから絵画で、写真で、映像で、人々の営みを記録して残そうとしてきた。そうして保存された記録もまた、ある種の永遠ではないだろうか。不老不死など目指さなくとも、人にはこの世界に永遠を刻み込めるのだと描くために、『鬼滅の刃』の最終話は現代のエピソードでなくてはならなかったのではないだろうか。

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