声優・浪川大輔が演じる医師は“変人で名探偵”? 現役医師が書く医療ミステリーの面白さ

人気声優が表紙に? 現役医師が描く名探偵

 津田彷徨のような医師で作家といえば、古くは軍医だった森鴎外がいて、『失楽園』の渡辺淳一がいてと大御所が並ぶが、医師としての経験が盛り込まれたミステリーというカテゴリーとなると、『閉塞病棟』の帚木蓬生や、『チーム・バチスタの栄光』の海堂尊が挙がる。ミステリーで超御大のアーサー・コナン・ドイルも医師だったが、その経験はホームズを主治医として見守るワトソンに仮託され、医療ミステリー的な展開にはあまりならない。医師でもあった手塚治虫の漫画『ブラックジャック』なら、医療ミステリー的なエピソードもあるから、同列に置くことは可能かもしれない。

 そんな現役医師による医療ミステリーの最前線に目下立っているのが、2020年の本屋大賞に『無限のi』がノミネートされた知念実希人。その著作に、まもなく9年ぶりの最新刊が出る谷川流の「涼宮ハルヒ」シリーズで、ハルヒをはじめキャラクターたちを描いてきたいとうのいぢが表紙絵を寄せ、キャラクターを描いている「天久鷹央の推理カルテ」シリーズがある。

 三神宗一郎に負けず天才的な頭脳の持ち主で、27歳でありながら中学生に間違われそうな顔立ちと体つきの女性、天久鷹央が一族の経営する病院の総合診療科を根城にして、発生する数々の事件を解明していくというストーリー。

 9月に出た最新刊の『神話の密室 天久鷹央の事件カルテ』(新潮社)では、アルコール依存症のミステリー作家が緊急入院した病室で、酒類がまったくないにも関わらず酩酊した状態に陥る件や、日本チャンピオンの座をかけタイトルマッチに挑んだキックボクサーが、対戦相手をノックアウトした直後にリングで倒れ、そのまま息を引き取った件に潜む複雑な事情を解き明かす。

 コミュニケーションに難がある鷹央は、入院したミステリー作家のところに著作を持って押しかけ、ファンだからとサインをねだろうとするだけでなく、小説の問題点を作者にぶつけようとする奇矯さで周囲を振り回す。柊はじめのように鷹央の部下として働く医師の小鳥遊優には大変な毎日だが、シリーズで鷹央と解決して来た数々の事件で得たカルテは、小鳥遊も読者も病気に関する知識として役立てられる。さすがは現役医師が書く医療ミステリーといった面白さを、こちらも存分に味わえるシリーズだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『ゴミ箱診療科のミステリー・カルテ』(星海社FICTIONS)
著者:津田彷徨
出版社:講談社
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『神話の密室 天久鷹央の事件カルテ』(新潮文庫)
著者:知念実希人
出版社:新潮社
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