女性医師への差別は今もなお……医療とともに社会は進歩したのか? コナン・ドイル、時代を越えた問いかけ
たとえば、名探偵シャーロック・ホームズの生みの親として知られるコナン・ドイル。専業作家になる前に開業医をしていたドイルは、1894年に『ラウンド・ザ・レッド・ランプ』という医学短編集を発表している。その中の一編「ホイランドの医者たち」が、本書では「女性医師」のカテゴリーで収録されている。
ドクター・ジェイムズ・リプリーは開業医だった父親の跡を継ぎ、競争相手のいない田舎の村の医療市場を独占していた。ところがある日、商売敵が現れる。女性医師ドクター・ヴェリンダー・スミスがやって来て、村の外れで新たに病院を開いたのだ。物語の舞台である19世紀イギリスの医療現場は男性中心主義で、女性医師なんてもってのほか。勇敢さや不屈さが求められる医者は男性がなるべき職業だとされ、リプリーもそう信じて疑わなかった。ところが、偏見は見事に覆される。
最新の医療器具を駆使して、どんな疾患も次々と治していくドクター・ヴェリンダー・スミス。腕前が評判を呼び、彼女の病院は大盛況。自分の病院の患者たちがどんどん離れていったリプリーの面目は丸潰れで、女性医師を否定どころか憎悪するまでになる。だがやがて、転機が訪れる。往診に向かう途中に馬車から投げ出されて脚を骨折してしまい、憎きライバルであるスミスの診察を受けることになったリプリー。毎日顔を合わせて彼女と話してみると、その勤勉さと学識の豊かさに感心させられ、女性が医師になることを快く思っていなかった自分の愚かさに気づく。いつしかスミスに恋心を抱くようになったリプリーは、彼女へ思いを告白しようとするのだが……。
そんな恋の行方と共に本作で気になるのが、男尊女卑というテーマの古びなさだ。医学部入試での女性差別が発覚するような今の日本で、この作品を昔話として読めるかというとそんなことはない。医療技術の進歩と同じくらいに、社会は進歩したのだろうかと考えさせられる。