「涼宮ハルヒ」シリーズ、なぜ大ブームになった? 優れたストーリーとキャラの魅力を再考
谷川流の「涼宮ハルヒ」シリーズの最新刊『涼宮ハルヒの直観』が、2020年11月25日、角川スニーカー文庫より刊行される。実に9年半ぶりの新刊である。しかも250ページを超える完全書き下ろし「鶴屋さんの挑戦」が収録されるそうだ。
かつての「涼宮ハルヒ」ブームを体験した人間としては、大いに期待をせずにはいられない。そんなときシリーズに関する原稿を依頼され、あらためて作品を読み返した。当時の熱狂はすでにないが、やはり面白い物語だった。
シリーズの第1弾となる『涼宮ハルヒの憂鬱』は、第8回スニーカー大賞受賞作だ。作品は、2003年6月に、角川スニーカー文庫で刊行される。同時に、電撃文庫から『学校を出よう! Escape from The School』も刊行され話題となった。こちらも面白い作品なのだが、人気という点では『涼宮ハルヒの憂鬱』が、ぶっちぎりであった。なにがそんなに受けたのか。ストーリーとキャラクターに、強い魅力があったのだ。
物語の語り手は、キョンと呼ばれる男子高校生だ。子供の頃に、アニメ的特撮的漫画的物語の世界に憧れていたが、中学を卒業する頃には夢から卒業。自分は脇役の立場で生きていけばいいと思っている。そんな冷めた彼が、山の上にある県立高校に入学。同じクラスの後ろの席にいる、涼宮ハルヒという少女と出会う。
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」という、とんでもない自己紹介をするハルヒに驚くキョン。どうやら彼女は、中学校でも数々のとんでもないエピソードを持つ、有名人だったらしい。ハルヒに声をかけたことから、彼女のペースに巻き込まれ、同好会未満のSOS団(正式名称は「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」)を立ち上げる。
無口で本ばかり読んでいる長門有希、小柄で童顔の朝比奈みるく、転校生の古泉一樹。他のメンバーも集まり、張り切るハルヒ。しかし彼らの正体は、意外なものであった。そしてハルヒも、世界を揺るがす大きな秘密を持っている。平凡な一般人であるキョンも、いつのまにか世界規模の騒動に巻き込まれていくのだった。
平凡な男の子と、エキセントリックな女子の、ボーイ・ミーツ・ガール物語として始まったストーリーは、途中からSFへと変容。さらに、ハルヒの秘密が明らかになるとセカイ系になる。セカイ系の定義は難しいのだが、ここでは個人の事情が世界の危機と直結している物語だと思っていただきたい。おお、ここまで話を広げるのかとビックリしていたら、最終的にボーイ・ミーツ・ガール物語へと回帰して落着する。子供の頃に、フィクションの世界の住人になりたいと思ったことのある人なら、誰でも好きにならずにいられない、きわめて優れたストーリーなのだ。