『かいけつゾロリ』著者・原ゆたかが語る、悪役を主人公にしたワケ 「大人に気に入られるいい話を書こうとは思っていない」

原ゆたかが語る、『かいけつゾロリ』誕生秘話

『ゾロリ』にちりばめられた時事ネタは……趣味?

――『ゾロリ』では時事ネタが入っていることが多いですが、これも子どもの興味を惹くためですか?

原:今の子どもに向けて本を描きたいから、今の時代性を入れ込んでいこうとは思っています……でも、どちらかといえば、私の趣味かな? 基本的にはストーリーには関係のない遊び的な場所に入れこんでいます。5年後、10年後忘れ去られた事件や流行になっても問題がないようにね。最近では『かいけつゾロリのうちゅう大さくせん』にM-1で優勝した霜降り明星のお二人をこっそり描いています。私があの二人が大好きで描いたのですが、気がついた子はびっくりしてくれるかもしれません。

 この縁で、二人のラジオにも『かいけつゾロリ』が番組でコラボしているんですよ。また、私がキャラクターとして、本の中に登場するのは、ヒッチコック監督が好きだからです。ヒッチコックの映画には、ヒッチコック自身がどこかに出演しますよね? わりとわかりやすく脇役として出てきたりもするし、小道具の新聞に写真がちょっとだけ出てくることもあるというような。子どもの頃、そういうヒッチコックを探すのが楽しかった思い出がきっかけで、自分の本にも自分を登場させ遊んでいたんです。

 そうしたら、読者の子がみつけてくれるようになり、そうなるとこっちも悔しくて、見つからないようにどんどん難しい隠し絵にエスカレートしているんですよ。

シナリオの研究をし直したのは『ゾロリ』の後半から

――「日経ビジネスアソシエ」(2013年4月号)の記事によると原先生は構成を決めるにあたり「三幕構成のチャート」「カード&ホルダー」「映画批評表」の3つを使われているそうですが、これはいつごろから使うようになったのでしょうか?

原:40作目以降ですね。それ以前はそこまではきっちりしていませんでした。なぜハリウッド映画を作るときに使っている脚本術を参考にしているかというと、ハリウッド映画は世界各国どこでも多くの人に受け入れられるからです。「誰が何をする」話なのかを最初に伝えて、ハッピーエンドになるというわかりやすい構成だからですよね。このメソッドを使えば子どもにわかりやすいおはなしのしくみが伝わるかなと。

――なるほど。

原:昔は編集者に「伏線を張っても子どもにわかるか?」「ややこしくなるから回想シーンを使うな」などと言われたものです。でも、サイン会には、小学校に上がる前に『ゾロリ』を全巻読んだという子が毎回5,6人来てくれるんですよ。小さい子にも、こんなややこしい物語が伝わっているんだとわかり、なかにはゾロリのここが面白かったと言って、こちらが唸るほど鋭い観点で読み込んでくれる子がいます。その隣で親御さんが「気づかなかった」驚かれていることもよくあります。そんなに伏線が多い物語だとは思っていなかったのでしょうし、自分の子どもの読解力にも驚かれるのだと思います。ゾロリを読める子は物語を深く理解できる子だと信じ、今は伏線や回想を入れても問題ないと考えています。

――僕の息子も4歳でひらがなも読めないですけど、読み聞かせすると『ゾロリ』にすごく食いついてきて、むしろ切り上げるのが難しいですね。けっこう長いのに。

原:『ゾロリ』は徐々に長くなっているんですよ。最初のころは88ページから92ページくらいまででした。最近の作品は103ページあります。ハリウッド映画も昔は70分くらいでしたが、作っていくうちに表現をエスカレートさせてスケールアップせざるをえなくなり、今の映画は120分を超えるものが多い。それと同じような感じかもしれませんね。もっと面白くドキドキさせたいと思うとエピソードも増え、長くなります。見ごたえ、読みごたえというものが時代によって変わってきているのだと思います。

――『ゾロリ』もスケールアップに伴ってちょっと長くなってきたんですね。

原:ハリウッドの脚本術などを参考にするようになったのも不安の裏返しのような気がします。

――不安というと……?

原:好きな映画や落語を参考にした作品をだいぶやり尽くしてきましたし、子どもたちの興味のある題材(かいじゅう、おばけ、宇宙人、たべもの、にんじゃetc…)もほとんど使いはたし、苦肉の策で生み出した、『カレーVS.ちょうのうりょく』みたいな「組み合わせ」で考えるようになったあたりからだいぶネタにつまってきた感じです。

 「最近の『ゾロリ』面白くないね」って言われるまで続けるのはイヤなんです。だから題材よりも物語の構造自体が大切になってくるんです。ストーリーそのものの流れがしっかりしていれば、多様性に影響されずに済むだろうという確認がしたくなっているのです。

――「この話、おもしろいのか?」と思ってツールを使って確認したくなるということですね? なるほど。

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