葛西純自伝連載『狂猿』第13回 相次ぐ膝のケガとホテルで体験した心霊現象

葛西純自伝連載『狂猿』第13回 相次ぐ膝のケガとホテルで体験した心霊現象

 葛西純は、プロレスラーのなかでも、ごく一部の選手しか足を踏み入れないデスマッチの世界で「カリスマ」と呼ばれている選手だ。20年以上のキャリアのなかで、さまざまな形式のデスマッチを行い、数々の伝説を打ち立ててきた。その激闘の歴史は、観客の脳裏と「マット界で最も傷だらけ」といわれる背中に刻まれている。クレイジーモンキー【狂猿】の異名を持つ男はなぜ、自らの体に傷を刻み込みながら、闘い続けるのか。そのすべてが葛西純本人の口から語られる、衝撃的自伝ストーリー。

第1回:デスマッチファイター葛西純が明かす、少年時代に見たプロレスの衝撃
第2回:勉強も運動もできない、不良でさえもなかった”その他大勢”の少年時代
第3回:格闘家を目指して上京、ガードマンとして働き始めるが……
第4回:大日本プロレス入団、母と交わした「5年」の約束
第5回:九死に一生を得た交通事故、プロレス界の歴史は変わっていた
第6回:ボコボコにされて嬉し涙を流したデスマッチデビュー
第7回:葛西純自伝『狂猿』第7回 「クレイジーモンキー」の誕生と母の涙
第8回:葛西純が明かす、結婚秘話と大日本プロレスとのすれ違い
第9回:大日本プロレス退団と“新天地”ZERO-ONE加入の真実
第10回:橋本真也の”付き人時代”とZERO1退団を決意させた伊東竜二の言葉
第11回:ジャパニーズデスマッチの最先端、伊東竜二との対戦は……?
第12回:アパッチプロレス軍入団と佐々木貴・マンモス佐々木との死闘

相次ぐ大きなケガ

 デスマッチをしていると背中に裂傷を負うとか、何針も縫うとかは当たり前なんだけど、欠場するような大きなケガというのは意外と何気ない場面でしてしまうものなんだ。

 2007年11月26日、大日本プロレスの後楽園ホール。俺っちは谷嵜なおきと組んで、佐々木貴&宮本裕向と有刺鉄線ボードタッグデスマッチに挑んだ。試合の終盤、俺っちは場外で貴と揉み合っていて、チョップを打とうと思って左足を踏み込んだ瞬間に左膝がベキベキベキっと音を立てた。激痛が走ったけど、お客さんはリング上の宮本と谷嵜に注目してるから、俺っちの異変には気づいていない。試合はそのまま宮本と谷崎の間で決着がついて、俺っちは控室まで脚を引きずりながら帰ってきた。

 すぐに病院に行って診てもらったら、左膝の半月板損傷。半月板がめくれあがって関節に挟まってるような状態で、除去しなくちゃいけない。手術後は1週間くらいで退院できるけど、普通に歩けるようになるまで2カ月、試合をするには半年ぐらいかかると言われた。

 内臓疾患から復帰したばかりなのに、また半年も休場することになってしまった。プロレスとかリハビリとか考える前に、生活していけない。カミさんに相談したら、その時にカミさんが勤めていた会社がいろいろなホテルにアメニティを卸してる会社で、そのツテでラブホテルの清掃の仕事を紹介してもらった。

 俺っちはプロレスラーになってからもいろいろバイトをしてきたけど、やっぱりどこかで誰かに見られたら嫌だなと思っていた。でも、ラブホテルの清掃なら人目につかないし、逆にお客さんと極力会わないようにしなきゃいけない。これはいいかも、と思って面接に行ったら、そのホテルの支配人がプロレスファンで、面接中はプロレスの話だけして『じゃあ明日から来てください』ということになった。

 そこは50室以上もある巨大なホテルで、お客さんもバンバン入るから清掃もかなり忙しかった。それでも、このナイトクリーニングは俺っちに向いていたようで、雨の日も雪の日も風の日も原付きで通って働いた。ホテルを行き交う人たちの人間模様も垣間見れたし、働いてる人たちにも良くしてもらって、自分の人生の中でも勉強になったことがたくさんあった。

ラブホテルでの心霊体験

 それ以外にも、ホテルによくある心霊現象みたいなことにも遭遇した。まぁ、わざわざ書くことじゃないし、いまとなっては本当にあったことなのかどうかもわからない。大前提として、あの頃は疲れが溜まっていたし、常に寝不足だったし、とにかく普通の精神状態ではなかった。

 ホテルの清掃の仕事っていうのは2人1組でやる。お客さんがチェックアウトすると、フロントから指示があって、2人1組で部屋に入って清掃を始める。それが終わったら、今度は「点検確認者」という係がいて、部屋に独りで入って最終チェックをして、OKが出たらその部屋を空室にして売りに出す、という手順だ。

 ある日の、夜中の2時か3時ぐらいだったかな? その日は俺っちが点検係だったから、清掃が終わった部屋にチェックに入ってくれっていわれて、了解って、その部屋に入った。ゴミの取り忘れがないかとか、アメニティの置き忘れがないかとかを確認してたんだけど、そこの部屋は岩盤浴がついていて、そこもちゃんと清掃できてるかをチェックしなくちゃいけない。それで岩盤浴の部屋に入って汚れがないかとかを見てたら、俺っちの斜め後ろくらいに誰かの視線を感じるんだよ。

 その時は普通に、スタッフの誰かが作業を急かすために来たのかな、なんて思って部屋の中を見渡したんだけど誰もいない。気のせいかな、と岩盤浴の部屋に戻って床をチェックしてたらまた視線を感じる。 

 それで今度はそっと、顔を少しだけ後ろにゆっくりと振り向いてみたら、テレビとベッドの間にでっかい真っ黒い影がいた。これはもうヤバい、見てはいけないものを見てしまったと直感して、すぐ点検をやめて、その影のいる所は見ないようにして部屋を出て、フロントに無線で「異常ありません。売ってください」と告げて、違う部屋で点検作業を続けた。

 それから1カ月くらい経った後に、また点検の係になった。その時も夜中の2時くらいに「点検入ってください」っていわれて行ったら、また岩盤浴の部屋。まぁしょうがねえやと、ちょっとビビりながらも点検を始めて、風呂場をチェックしてたら後ろから視線を感じる。なんだよと思ってパっと振り返ったら誰もいない。

 気持ち悪いなと思いながら点検してると、また視線を感じるから、目だけでそーっと後ろに目線を向けたら、風呂の入り口のドアの上のあたりに、おかっぱ頭で顔がのっぺらぼうの赤い着物着た女の子がいて、その娘の首が音もなくニューって伸びていった。うわ~と思って速やかに作業を終えて部屋を出て、フロントに無線で「点検終わりました。売ってください」と報告した。

 その日の休憩時間に待機室に行ったら、同じバイトで働いてる、霊感の強いと皆から言われてるおばさんがいた。何気なく「ちょっと前にでっかい黒い影を見て、今日はのっぺらぼうで赤い着物きたおかっぱ頭の女の子を見たんですよ」って言ったら、一発で「それ、岩盤浴の部屋でしょ」と当てられた。「私も最近あの部屋入るとすごい気持ち悪くて、色んなもの見るのよ……」。おばさん曰く、その部屋で人が死んだとかそういうことじゃなくて、ラブホテルっていうのは、色んな事情を抱えた男と女が出会う場所だから、そういう人たちのマイナスの念だけが残って、その部屋にずっと漂ってるということだった。

 まぁ、何が言いたいのかのというと、こんな経験をするぐらいナイトクリーニングを続けていた、ということ。試合が終わった後はさすがにバイト入らなかったけど、試合前日の夜から朝の5時まで働いて、家に帰って来てちょっと寝てから試合会場に向かう、というのはよくあった。トータルで5〜6年はやっていたから、やっぱり向いていたのかもしれない。

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