葛西純自伝連載『狂猿』第10回 橋本真也の”付き人時代”とZERO1退団を決意させた伊東竜二の言葉

葛西純自伝連載『狂猿』第10回 橋本真也の”付き人時代”とZERO1退団を決意させた伊東竜二の言葉

 葛西純は、プロレスラーのなかでも、ごく一部の選手しか足を踏み入れないデスマッチの世界で「カリスマ」と呼ばれている選手だ。20年以上のキャリアのなかで、さまざまな形式のデスマッチを行い、数々の伝説を打ち立ててきた。その激闘の歴史は、観客の脳裏と「マット界で最も傷だらけ」といわれる背中に刻まれている。クレイジーモンキー【狂猿】の異名を持つ男はなぜ、自らの体に傷を刻み込みながら、闘い続けるのか。そのすべてが葛西純本人の口から語られる、衝撃的自伝ストーリー。

第1回:デスマッチファイター葛西純が明かす、少年時代に見たプロレスの衝撃
第2回:勉強も運動もできない、不良でさえもなかった”その他大勢”の少年時代
第3回:格闘家を目指して上京、ガードマンとして働き始めるが……
第4回:大日本プロレス入団、母と交わした「5年」の約束
第5回:九死に一生を得た交通事故、プロレス界の歴史は変わっていた
第6回:ボコボコにされて嬉し涙を流したデスマッチデビュー
第7回:葛西純自伝『狂猿』第7回 「クレイジーモンキー」の誕生と母の涙
第8回:葛西純が明かす、結婚秘話と大日本プロレスとのすれ違い
第9回:大日本プロレス退団と“新天地”ZERO-ONE加入の真実

「プロレスラーの橋本です」で改札を通過

 「ZEROーONE」には、メジャー出身のレスラーがたくさん所属していたから、葛西純に対して「インディから変なヤツが来たな」みたいな冷たい目で見られんじゃないかと覚悟していたけど、大谷(晋二郎)さんも、高岩(竜一)さんも、頭が柔らかくて、プロフェッショナルで、俺っちのことをいちレスラーとして対等に扱ってくれた。俺っちは真面目に合同練習に出ていたし、リング外では若手だった佐々木義人や黒毛和牛太(不動力也)と仲良くなって、飲んだりするようになった。それに、大日本プロレスにいた後期と違ってちゃんと給料がもらえたから、ZERO-ONEはかなり居心地が良かった。

 ただ、予想外だったのが橋本(真也)さんだった。噂には聞いてたけど、本当にガキ大将がそのまま大きくなったような人で、俺っちはその言動に振り回されるようになっていった。橋本さんは歴史が好きで、なかでも織田信長を尊敬していて、自分は「信長の生まれ変わり」と公言していた。で、俺っちは猿キャラをやっていたから、橋本さんの中ではサル=豊臣秀吉という形になったみたいで、いきなり「サルを付き人にする!」って言い出した。俺っちは橋本さんに気にいられていたから、プロレスの流れで「信長・秀吉タッグ」でも組むのかなと思ってたら、これがリアルな話で、フロントからも「橋本さんの付き人に付いてくれ」と言われた。

 大日本プロレスには付き人制度はなかったから、俺っちにはとっては初の経験。何をどうすればいいのかよくわからないまま、俺っちはデビュー5年目にしてレスラー人生初の付き人をやることになってしまった。この頃の橋本さんは、新日本プロレスにいたときに比べたら「丸くなった」と言われていたけど、それでもなかなか豪快な人で、俺っちは戸惑うことが多かった。

 ある地方会場の試合が終わってホテルに泊まったとき、橋本さんから「明日、新幹線に乗って東京に帰らなきゃいけないから、サル、起こせよ!」と言われた。俺っちは「わかりました」といって自分の部屋に戻ったんだけど、橋本さんが寝坊したら大変だと思うと気が気じゃなくて、自分の睡眠もそこそこに早起きして、橋本さんを起こしに行った。部屋に入って「橋本さん、新幹線の時間があるので起きてください!」って声をかけると、「わかった」と言いつつまだ寝ている。刻一刻と時間が迫ってくる。さすがにヤバイと思って、「橋本さん、もうギリギリですよ!」って何度も声をかけたら、橋本さんは「分かっとる。慌てるな」と言いながらむっくりと起き上がって、身支度をはじめるんだけど、その動作がめっちゃスローなんだよ。それで「サル、ズボンを取ってくれ」「シャツ取ってくれ」って言いつけてくるんだけど、シャツもズボンの橋本さんのすぐそばに置いてあるから、自分で取ったほうが早いんじゃねぇのかなと思いつつ手伝って、なんとかホテルを出てタクシーに乗リ込んだ時点であと10分ぐらいしかない。

 もう新幹線が出発するというギリギリの時間に駅に着いたんだけど、まだ切符を買ってないことに気づいた。これ切符を買ってたら絶対間に合わねえな、と思ったら、橋本さんはまったく躊躇せずにそのまま改札にスーッと向かって行くんだよ。「すいません橋本さん! まだ切符買ってないんです!」と引き留めようとしたら、橋本さんは「ええから、黙ってついてこい!」とノシノシ歩いていって、駅員に「どうも、プロレスラーの橋本です」とニッコリ笑って、顔パスでそのまま改札を通過した。新幹線には本当にギリギリ乗れて、車内で切符を買って、すべてが間に合った。めちゃくちゃだけど、これがスターのオーラかと思い知らされた。

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