ニートが戦闘指揮官に……「マージナル・オペレーション」は近未来のビジョンを描く ラノベ週間ランキング

芝村裕吏「マジオペ」で描かれる近未来

本 ライトノベル 週間ランキング(2020年5月18日~2020年5月24日・Rakutenブックス調べ)
1位『わたしの幸せな結婚 三(3)(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
2位『ソードアート・オンライン24 ユナイタル・リングIII(電撃文庫)』川原礫、abec KADOKAWA
3位『わたしの幸せな結婚(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
4位『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(14) あやせif 下(電撃文庫)』伏見つかさ、かんざきひろ KADOKAWA
5位『薬屋のひとりごと(4)(ヒーロー文庫)』日向夏 主婦の友社
6位『薬屋のひとりごと(3)(ヒーロー文庫)』日向夏 主婦の友社
7位『わたしの幸せな結婚 二(2)(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
8位『薬屋のひとりごと(5)(ヒーロー文庫)』日向夏 主婦の友社
9位『マージナル・オペレーション改 09(星海社FICTIONS)』芝村裕吏、しずまよしのり 星海社
10位『薬屋のひとりごと(9)(ヒーロー文庫)』日向夏 主婦の友社
ランキング:https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#!/1/

 ニートが異世界に転生して、与えられた異能の力や前世での経験を活かして大暴れする物語を挙げればきりがないが、ニートが現実世界で民間軍事会社に就職して、戦闘指揮官として大活躍する物語はこれくらいか。『高機動幻想ガンパレード・マーチ』や『刀剣乱舞』といったゲームの制作に携わりつつ、作家としても活動する芝村裕吏による「マージナル・オペレーション」のシリーズだ。

 時は2020年代前半ごろ。ゲーム系の専門学校を出たものの、希望するゲーム会社には就職できず、しばらくニート生活を送っていたアラタは、どうにか就職したデザイン会社も倒産してしまい、再びニートとなっていた時に見た民間軍事会社の募集に応じる。軍事の知識も戦闘の経験もなかったが、元ゲーマーだったからか、優れた状況判断能力を持っていると見なされ採用されてしまう。

 赴いた中央アジアの紛争地域で、当初はモニターに映し出される情報と、通信で入って来る声を聞きながら、現場の指揮官たちに指示を与える仕事に就いたアラタだったが、訓練期間中に指揮したシミュレーションが、実は本当の戦闘だったと後で知らされ、自分の指示で民間人の村が攻撃されて大勢が死んだ可能性を思い、迷い始める。

 そしてアラタは、自分で民間軍事会社を立ちあげ、戦闘で家族を失ったり、戦火に追われて難民となったりした子供たちを兵士として雇い入れ、戦いを始める。子供に銃器を持たせるとは何と非道だと思われそうだが、ここでアラタが考えたのは、自分が雇わなければ他の指揮官の下で消耗品のように扱われるだけだということ。戦場でもむやみに少年兵たちの命を散らすような指揮はせず、深い洞察力や正確な分析力を元に負けない戦いを続けたアラタは、いつしか「子供使い」という異名で知られるようになる。

「マージナル・オペレーション」シリーズ第1作

 日本の情報機関や諸外国の軍事組織と渡り合って、家族ともいえる子供たちを守り続ける。個々の戦闘でどれだけ窮地に陥っても、激情とは真逆の冷静なスタンスを保ち、絶妙の采配を繰り出して状況をひっくり返す。戦略にも戦術にも長けた希代のヒーローの誕生と成長を追っていけるシリーズは、2012年に第1巻が出て、中央アジアから日本を経て東南アジアへと至る『マージナル・オペレーション』として5冊を刊行。短編集やユーラシア大陸をさまよう『マージナル・オペレーション空白の一年』上・下巻を経て、『マージナル・オペレーション改』シリーズとして続いている。

 その最新刊となる『マージナル・オペレーション改09』(星海社FICTIONS)が、Rakutenブックスの5月18日から24日のランキングで9位に入り、コミック版を含めたシリーズ累計100万部を突破した人気ぶりを改めて見せた。作中で世界情勢はスタート時から大きく動き、中国が攻勢を強めたことから朝鮮半島で動乱が起こり、韓国のソウルが北からの攻撃で壊滅し、日本に大勢の難民が押し寄せている。

 中国は東南アジアにも進撃を始めていて、これを迎え撃っていたのがアメリカ海兵隊とアラタたちの部隊だったが、制空権を奪われ中立だったはずのタイ王国の造反もあって撤退を余儀なくされる。ここから幕が開いた最新刊で、中国の人民解放軍による空爆と追撃が始まる中、アラタは3000人の子供たちと、自衛隊が開発した「まめたん」と呼ばれる多足型ロボット戦車を率いて戦線から離脱しようと策を巡らせる。

 その途中で、日本やアメリカを含む国家の様々な思惑が絡んだ判断が行われたことで、日本への帰還を想定していたアラタたちを最前線へとUターンさせる。個々の戦闘で繰り広げられるアラタの軍師的な活躍を楽しめる一方で、国家間の外交や軍事がどういった経緯で決定されているかが伺えるのも、このシリーズの特徴だ。

 覇権を強める中国によって揺らぐ朝鮮半島情勢。関係が悪化する日本と韓国。中国を意識して変化する東南アジアの国々のスタンス。これらは単なる思想から願望ではなく、膨大なデータを集めて分析した上で、作家によって示された近未来のビジョン。新型コロナウイルス感染症という、歴史的パンデミックの影響こそ含まれてはいないものの、より深まっている米中の対立が、作中の世界の訪れを早める可能性も想定して読むと良いだろう。

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