『わたしの幸せな結婚』人気を考察 「なろう」発のベストセラーがずらりラノベ週間ランキング

『わたしの幸せな結婚』人気を考察

本 ライトノベル 週間ランキング(2020年3月9日~2020年3月15日・Rakutenブックス調べ)
1位『魔法科高校の劣等生31 未来編(電撃文庫)』佐島勤、石田可奈 KADOKAWA
2位『転生したらスライムだった件16(GCノベルズ)』伏瀬、みっつばー マイクロマガジン社
3位『薬屋のひとりごと9(ヒーロー文庫)』日向夏、しのとうこ 主婦の友社
4位『わたしの幸せな結婚(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
5位『薬屋のひとりごと9 ドラマCD付き限定特装版(ヒーロー文庫)』日向夏、しのとうこ 主婦の友社
6位『わたしの幸せな結婚2(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
7位『やがて君になる 佐伯沙弥香について3(電撃文庫)』入間人間、仲谷鳰 KADOKAWA
8位『Re:ゼロから始める異世界生活22(MF文庫J)』長月達平、大塚真一郎 KADOKAWA
9位『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX -ファイブ・オーディールズー10(電撃文庫)』時雨沢恵一、黒星紅白 KADOKAWA
10位『浅草鬼嫁日記8 あやかし夫婦は吸血鬼と踊る。(富士見L文庫)』友麻碧、あやとき KADOKAWA
ランキング:https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#!/1/

 4月10日発売の佐島勤『魔法科高校の劣等生31 未来編』、3月27日に発売の伏瀬『転生したらスライムだった件16』と、共に1000万部を超えるベストセラーシリーズの最新作が予約段階で1位と2位を占めたライトノベルの週間ランキング。小説投稿サイトの「小説家になろう」から出てきた作品という点も共通している。

 戦略級と呼ばれ、強大な威力を持った魔法を使える魔法法師の司波達也が、妹の美雪を守ることを絶対的な使命として戦い続けてきた「魔法科」シリーズは、この「未来編」から終局に向かって進み始める。7月からはアニメの第2期も放送予定。期待の高まりからトップに躍り出た。

 「転スラ」シリーズも2019年10月から半年間放送されたアニメの第1期が良い出来で、原作人気を押し上げた。こちらも今秋からアニメの第2期が放送予定。作品人気をさらに盛り上げようと、3月21日と22日に開催のアニメイベント「AnimeJapan2020」で、「魔法科」「転スラ」のステージが行われる予定だったが、新型コロナウイルスの影響でイベントごと休止になった。

 8位に3月25日発売予定の最新作『Re:ゼロから始める異世界生活22』が入った長月達平の「Re:ゼロ」シリーズに至っては、4月から放送開始予定だったアニメ第2期が、制作体制の問題もあって放送延期となってしまった。「魔法科」や「転スラ」のアニメにも新型コロナウイルスの影響が及ぶかは今後の情勢次第だが、こうした中にあっても原作小説は好調を維持。作品を支えるファンの多さを証明していると言えそうだ。

 2月28日に最新刊『薬屋のひとりごと8』が発売になったことで、既刊分も含めてランキングに入ってきた日向夏の「薬屋のひとりごと」シリーズ。これも「小説家になろう」連載作品からの書籍化で、コミック版での評価を乗せてベストセラーになる、近年のライトノベルやキャラクター小説の傾向にしっかり乗ったものだった。

 そして、2月15日の最新刊とともに、3作品が30位までに入った顎木あくみ「わたしの幸せな結婚」シリーズも、「小説家になろう」への連載作が富士見L文庫から刊行され、スクウェア・エニックスでコミック版もスタートといった、「天スラ」や「薬屋」の"ヒットの法則"をしっかりと受け継いでいる。

 ただし、内容は異世界転生でもなく後宮ミステリでもなく恋愛もの。悲惨な境遇に置かれて虐げられ、自信を喪失してしまった娘が、高貴な家の美しい男を伴侶に得ることで幸せになっていくシンデレラストーリーだ。

 舞台は明治・大正の日本といった雰囲気で、異能を持った一族がいくつも存在していて、頂点に立つ帝を護り国を支えている。そうした一族のひとつ、斎森家に美世は長女として生まれ育ったが、実母を早くに亡くし、父親はかつての恋人だった女性と再婚して香耶という娘が生まれた。父親と継母は香耶だけをかわいがり、美世は使用人以下の扱いを受けて毎日を暮らしていた。

 この虐げ方がなかなか凄まじい。長女でありながら妹のためにお茶を入れ、食事の後片付けをして玄関前を掃除する。逆らえば説教され蔵に閉じ込められて出してもらえない。『この世界の片隅に』ですずさんが、小姑の径子さんから受ける仕打ちを何百倍にもした激しさで、美世を痛めつける。

 美世が異能を受け継がず、香耶には少しだけだが見鬼の異能があったこともふたりの扱いに差をつけた。他家との関係を深めるための縁談という話になった時、美世が心を許せる相手だった辰石家の次男は、香耶の許嫁に決められた。美世は九堂清霞という軍人の男に嫁ぐよう命令される。これが死刑宣告にも等しい話だった。

 地位も名声も財力もあって斎森家よりはるかに格上の九堂家だが、当主の清霞は冷酷無慈悲な人物として有名だった。過去に清霞と婚約して家に入った良家の子女が何人もいたが、3日ともたずに逃げ帰ってしまった。女学校に通わせてもらえず、教養も礼儀作法も知らず、身の回りの品々も粗末なものしかない美世が嫁いだところで、やはり追い出されてしまうだろう。戻ろうにも斎森家は受け入れてくれない。路頭に迷うか、使用人として置いてもらうしかないと覚悟して赴いた九堂家で、清霞は美世に「ここでは私の言うことに絶対に従え。私が出ていけと言ったら出て行け。死ねと言ったら死ね。文句や反論は聞かん」と宣告する。

 なるほど冷酷。そして無慈悲。けれども、美世にとってはすでに斎森家で受けていた仕打ちだった。だから(なんだ、そんなことか)と思い「かしこまりました」と返事した。これが清霞を驚かせた。良家の子女だったら絶対に受け入れられない扱いを当たり前のように受け入れ、使用人といっしょに清霞の朝食を作り、破れた自分の着物を自分で繕う美世に清霞は何かを感じるようになる。

 そんな出会いから、美世と清霞がお互いを信頼するようになっていくというストーリーが、「わたしの幸せな結婚」シリーズの軸となっている。

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