出版市場の“22年ぶり復調”はなぜ起こった? ウェブと本の共生関係、その現在地を探る

出版市場の“22年ぶり復調”はなぜ起こった? ウェブと本の共生関係、その現在地を探る

 出版科学研究所によれば、2019年の出版推定販売金額は紙と電子を合わせて1兆5432億円と前年比0.2%増となり、1996年の2兆6564億円をピークに、以降は縮小を続けてきた出版市場が22年ぶりに上昇に転じた。

 内訳は紙が1兆2360億円(前年比4.3%減)、電子が3072億円(同23.9%増)。紙の内訳は、「書籍」が6723億円(同3.8%減)、「雑誌」が5637億円(同4.9%減)。電子は「コミック」が2593億円(同29.5%増)、「書籍」が349億円(同8.7%増)、「雑誌」は130億円(同16.7%減)。コミック以外の電子書籍でよく伸びているのはラノベやビジネス書、写真集だという。数字上はついに「底を打った」と言える。

 この数字をポジティブに捉えるかネガティブに捉えるかは見方によるが、ここではポジティブな面に目を向けてみよう。

大手の決算はデジタル+版権+広告の伸びで増収増益

 「電子書籍が伸びた」以外に、この数字には反映されていない出版社の稼ぎもある。2019年に発表された大手出版社の決算を見ると、小学館、集英社、講談社はいずれも増収増益だ。売上の内訳を見ると紙の書籍や雑誌は減っているが、デジタル、版権ビジネス、広告収入が伸びている。

 これはコミックを軸に、電子書籍やマンガアプリなどのデジタル部門が伸び(マンガアプリでは課金のみならず広告からの収益もある)、さらにマンガを原作に物販、2.5次元舞台に代表されるライブエンタテインメントなどへとIPを多面的に展開、また海外の出版社やゲーム会社に対しても版権ビジネスを行うことで、好成績になったと考えられる。

 メディアでは「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」をはじめマンガ雑誌の部数が減り続けていることが取り上げられがちだが、たとえば集英社が2019年8月に発表した決算ではデジタル、版権、物販などが大幅に伸長した結果、売上は10年前の水準に回復、利益も当期純利益が100億円に迫る歴史的な好成績だった。

 版権ビジネスからの売上は、冒頭で述べた出版販売金額には含まれない。

文春オンラインほかニュースメディアは順調

 コミックを軸とした多面的展開の成功例には及ばないが、そのほかにも出版界にとってポジティブに捉えられる要素はいくつかある。出版社によるニュースメディアの興隆もその一つだろう。

 文藝春秋が運営するニュースサイト「文春オンライン」は2019年11月の純PV(自サイトでのPV)が、月間3億PVを超え、外部配信先での閲覧を加えた総PVは月間6億PVと大成功を収めている。

 東洋経済オンラインも自社サイト上だけで2億PVを超え、現代ビジネスは1.2億PVを超えるなど、ニュースサイトは運営ノウハウが蓄積され、週刊誌、経済誌、カルチャー誌などのウェブ版は順調なところが少なくない。

 WELQ問題が起こったころと比べると、まともに読める記事を配信するウェブメディアのほうが目立つ時代になり、もともとコンテンツを作る力のある出版社はもはや劣勢とは言いがたい状況になってきた。

 そしてこういうサイトの収益はほとんどが広告で成り立っていることもあり、やはり先に挙げた「出版市場」の数字には含まれない。

 さらに言えば、インターネット広告市場は伸びて雑誌広告は斜陽だとよく言われるが、出版社系ウェブメディアも広告掲載媒体としてインターネット広告市場の一翼を担っている点はなぜかそれほど語られない(出版関係の統計を発表している出版科学研究所やインプレスには出版社系ウェブメディアが広告から得た売上の推計をぜひ調査して毎年発表するようにしていただきたい)。

ブランドを表現できる編集人材を求める外部の業界

 佐々木康裕『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』によれば、近年話題のD2C企業では、スーツケースブランドをはじめ多様な領域で、自社の世界観とストーリーを顧客に伝えるために紙の雑誌を作ることが流行しているという。

 D2C企業ではないが、2018年5月、男性向けカルチャー誌『POPEYE(ポパイ)』元編集長の木下孝浩氏がユニクロの執行役員に就任し、2019年6月には雑誌『LEON(レオン)』を経て『OCEANS(オーシャンズ)』編集長を務めた太田祐二氏もユニクロに参画。これもブランドの世界を表現するのに紙のカルチャー誌経験者の能力が買われたということだろう。

 これまた「紙+電子書籍」の出版市場には現れないが、かたちを変えて出版人材が文化的・経済的な価値に貢献している例だ。

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