漫画の原画展各地で盛況、サイン会は減少?  高まる“手描き”の注目度とアート作品としての“鑑賞”

■原画展ブームの陰でサイン会が減っている?

中条比紗也による不朽の名作『花ざかりの君たちへ』の原画展の一部

  原画展ブームが続いている。昨年、東京・六本木の国立新美術館で開催された「CLAMP展」は大盛況だった。今年も原画展が各地で開催される見込みで、漫画ファンはどの展示会に行こうかと、今から悩んでいる人は多いのではないだろうか。

  その一方で、漫画家の洋介犬氏が指摘しているように、原画展が盛り上がる一方で、漫画家のサイン会は少なくなったという意見がある。確かに、原画展のタイミングでサイン会が開催されることはあるが、サイン会が単独で行われる頻度は減ったように思う。

  一昔前は、大都市の大型書店であれば毎週のように小説家や漫画家のサイン会が開催されていたものだった。昨今では店頭にサイン本を数十冊準備するかわりに、サイン会を行わないケースが増えているようである。

■コロナ禍がサイン会に与えた影響

  ファンが作家と交流できる貴重な機会であるサイン会、いったいなぜ減少してしまったのだろうか。大手出版社の漫画編集者は「考えもしなかったが、確かに(サイン会が減ったのは)その通りかもしれない」と話しつつ、こう分析する。

 「ひとつは、コロナ禍で3年間にわたり、ファンと作家の交流の機会が制限されたことが大きいと思います。芸能人の握手会などもコロナ禍では激減しましたよね。その流れが現在も続いているのではないでしょうか」

  確かに、コロナ禍では芸能人やアイドルとの交流が制限されるに至った。また、昨今、アイドルの握手会では大小さまざまなトラブルが起きている。警備体制の構築などに手間がかかることから、出版社も開催に消極的なのではとさらにこう分析する。

 「あと、作家さんも、あまり人前に出たがらない人が増えている気がしますね。顔出しをしたくない、人前に出ると緊張してしまう…など、悩みを抱えている人も少なくありませんから。私が担当した作家にもそういった人は何人もいましたよ」

■原画展が注目される背景は?

 サイン会ではなく、原画展が注目されている背景には何があるのだろうか。一つは、デジタルで描いた漫画が隆盛の時代において、昔ながらのアナログの技術によって描かれた作品がアートとして評価が高まっている点にある。緻密なペン入れやトーンワークなど、デジタルでは味わえない原画の魅力が往年の漫画ファンだけではなく、デジタルネイティブの若い世代にも浸透しつつある。

 こうした原画展を通じて、漫画は「読んで楽しむ」ことだけではなく、「原画を鑑賞する」というアート的な見方ができることに気づく人が増えているようだ。 また、原画展では原画の展示だけではなく、複製の原画や限定グッズの販売もが行われることが多い。サイン会以上にマネタイズがしやすいという点が、出版社など主催者側にとってはメリットもあるのだろう。

 昨今は、百貨店で原画展が行われる機会が増えている。これは会場ごとに異なる展示やイベントが企画できるため、熱心なファンはそれぞれの会場を訪問してくれるなど、集客力の面でメリットが高いためだ。漫画の芸術性が評価されるようになり、美術館や博物館での展示も増加傾向である。今後、原画展はより注目度を増していくことになるだろう。

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