「芥川賞は番狂わせ」文芸評論家・栗原裕一郎が第162回芥川・直木賞のポイントを解説
第162回芥川賞・直木賞受賞作が、1月15日に発表された。
芥川賞受賞作は古川真人『背高泡立草』に決定。受賞作『背高泡立草』は、古川が書き続けている“吉川家”を巡る作品であり、母の実家が持つ古い納屋をめぐり、江戸時代まで物語は飛躍する。文芸誌『すばる』十月号に掲載されノミネート。単行本は1月24日に集英社から発売される。
文芸評論家・栗原裕一郎氏に、今回の受賞のポイントについて訊いた。
「正直、古川真人氏の芥川賞受賞は番狂わせでした。専門家筋で予想していた人はほとんどいなかったのではないでしょうか。古川さんの作品は、古き良き純文学のイメージを体現しているところがあります。もちろんそれが実際の純文学かどうかは別として、一般の読者が思い浮かべるだろう“純文学らしさ”を備えている雰囲気はあるんじゃないかと思います。また、決してわかりやすい物語とは言えないものの、リーダビリティは上がっている。今回、これまでとは作風に変化を持たせてきていたんですが、意識的か偶然か、かつて島田雅彦選考委員が選評で呈した苦言とサジェスチョンを踏まえたような作品になっていました。今回の選考では、島田委員が古川さんを強く推したそうですが、背景にはそんな経緯があったのかもしれません。古川氏は4度目の候補ということで、作品の内容だけでなく、キャリアを慮った判断も少なからずあったんじゃないですかね。邪推になりますが」
では、栗原氏の予想ではどの作品が本命だったのか。
「完成度からいえば、乗代雄介氏『最高の任務』が一番可能性があるんじゃないかと思っていました。下馬評的には一番評判がよかったんじゃないでしょうか。ただ、芥川・直木賞の選考委員は男女が均等になっており、そこも受賞を決める大きなポイントなので、痴漢のシーンを女性選考委員がどう捉えるかという議論はありました」
一方、第162回直木賞の受賞作は川越宗一『熱源』。初の候補で受賞となった川越氏は、2018年に歴史小説『天地に燦たり』で第25回松本清張賞を受賞しデビュー、本作は長編2作目となる。文明の理不尽にさらされるアイヌ民族らを主人公に、人間が生きる源となる熱のありかを壮大なスケールで描いた一冊だ。この受賞については、栗原氏はどう見たのか。
「芥川賞の結果は驚きでしたが、直木賞は非常に順当だと思いました。奇抜さを狙ったミステリー作品が多い中、本格的かつ文化的な作品で、とても力がこもっていました。正統派ですし、ミステリー作品群の中ではいい意味で浮いていたと思います」
単行本がすでに発売されている『熱源』は、受賞作としてPOPをつけ売り出される様子が早速各書店のTwitterにアップされている。『背高泡立草』は、1月24日に単行本が発売される。読書から少し離れていたという方も、この機会に本を手にとってみて欲しい。奇しくも、北海道のアイヌ文化を描いた『熱源』、九州の島を描いた『背高泡立草』が受賞された。受賞者会見では、古川氏と川越氏の対極的な受け答えも注目を集めていたので、合わせて読むと面白いかもしれない。
■書籍情報
芥川賞受賞作『背高泡立草』
著者:古川真人
出版社:集英社
発売日:2020年1月24日
価格:1400円(本体)
書籍サイト:https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771710-5
直木賞受賞作『熱源』
著者:川越宗一
出版社:文藝春秋
<発売中>
価格:1850円(本体)
書籍特集ページ:https://books.bunshun.jp/sp/netsugen