第162回芥川龍之介賞・直木三十五賞の候補作発表 各作品の見どころ解説

 芥川賞・直木賞の候補者が発表された。日本で一番有名な文学賞であることは誰も疑わないだろう。どちらの賞も、作家であり文藝春秋社の創設者でもある菊池寛が1935年に創設し、毎年上半期(前年12月から5月までに発表されたものから選考)と、下半期(6月から11月までに発表されたものから選考)の2回受賞者が発表される。

 優れた純文学(短編~中編)を書いた新進作家に与えられる芥川賞に対し、優れた大衆小説(短編~長編)を書いた作家に与えられる直木賞。直木賞は本来新進・中堅作家を問わず選ばれるが、近年は中堅作家の受賞が多い。芥川賞は雑誌(同人雑誌含む)に発表されたもの、直木賞は単行本が発行されたものから選考される。芥川賞が新人のデビュー作なども選ばれることが多く、直木賞に中堅作家の受賞が多いのはこのことからである。

 選考委員は毎回若干の変動がある。現在は、芥川賞選考委員が、小川洋子・奥泉光・川上弘美・島田雅彦・堀江敏幸・松浦寿輝・宮本輝・山田詠美・吉田修一の9氏。直木賞選考委員会は、浅田次郎・伊集院静・角田光代・北方謙三・桐野夏生・髙村薫・林真理子・宮城谷昌光・宮部みゆきの9氏が務めている。

 今回芥川賞の候補に上がったのは、以下の5名である。
・木村友祐 『幼な子の聖戦』(すばる十一月号掲載)
・髙尾長良『音に聞く』(文學界九月号掲載・単行本発売)
・千葉雅也『デッドライン』(新潮九月号掲載・単行本発売)
・乗代雄介『最高の任務』(群像十二月号掲載)
・古川真人『背高泡立草』(すばる十月号掲載) 

 2009年に『海猫ツリーハウス』で第33回すばる文学賞を受賞した木村友祐(きむら・ゆうすけ)。青森県出身の木村は、東北の小さな村の村長選をめぐる話を書いた『幼な子の聖戦』で候補となった。

 『音に聞く』で候補となった髙尾長良(たかお・ながら)は、2012年20歳の時に『肉骨茶』で第44回新潮新人賞を受賞。史上最年少での同賞受賞、そして同作で第148回芥川賞候補に。続いて出版された『影媛』も第152回芥川賞候補となった。本作『音に聞く』は、作曲に天賦の才をみせる15歳の妹と、母語から離れ翻訳家として活躍する姉、音楽の都ウィーンを舞台に二人の関係が静かに描かれる。

 哲学者・千葉雅也は初の小説『デッドライン』で野間文芸新人賞受賞に続いて芥川賞受賞となるか。修士論文を書く大学院生の日々が描かれる。セクシャリティ、思考。千葉にしか綴ることのできない小説だろう。

 『最高の任務』の乗代雄介(のりしろ・ゆうすけ)は、2015年に第58回群像新人文学賞を受賞し、2018年には野間文芸新人賞も受賞した。今作では「書くこと」でしか現実をつかまえられない少女の繊細な心情を描く。小学生の頃に書いた日記を通して語られていく記憶。野間文芸新人賞受賞の気鋭による青春小説。

 これまでに3度芥川賞候補となっている古川真人(ふるかわ・まこと)。古川の描く『背高泡立草』は、まさに古川らしい家族小説である。母の実家が持つ納屋。時間が流れた痕跡があるだけのその納屋をめぐり、江戸時代まで物語は飛躍する。

 直木賞の候補となったのは、以下の5名。
・小川哲『噓と正典』(早川書房)
・川越宗一『熱源』(文藝春秋)
・呉勝浩『スワン』(KADOKAWA)
・誉田哲也『背中の蜘蛛』(双葉社)
・湊かなえ『落日』(角川春樹事務所)

 2017年『ゲームの王国』で日本SF大賞と山本周五郎賞を受賞した小川哲(おがわ・さとし)。 2冊目となる単行本の今作は短編集である。書き下ろしである表題作『嘘と正典』は、CIA工作員が共産主義の消滅を企むストレートなSF小説だ。

 2018年に歴史小説『天地に燦たり』で第25回松本清張賞を受賞しデビューした川越宗一(かわごえ・そういち)。2作目の長編となる『熱源』で候補となった。文明の理不尽にさらされるアイヌ民族らを主役に、人間が生きる源となる熱のありかを壮大なスケールで描く。

 呉勝浩(ご・かつひろ)は、2015年『道徳の時間』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2018年『白い衝動』で大藪春彦賞を受賞している。本作『スワン』は、首都圏の巨大ショッピングモール「スワン」で起きたテロ事件を描くミステリー小説だ。

 『背中の蜘蛛』で候補に登った誉田哲也(ほんだ・てつや)は、『ストロベリーナイト』や『武士道シックスティーン』など映像化された作品も多い。サイバー技術を駆使する新時代の警察小説である今作『背中の蜘蛛』も映像化待った無しか。

 湊かなえ(みなと・かなえ)はデビュー11年目。『落日』は現実の事件を題材にした映画を撮ろうと画策する映画監督と、事件が起きた地出身の脚本家の物語で、湊の得意とする王道ミステリーである。

 選考委員会は、2020年1月15日午後4時より築地・新喜楽で開催される。

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