NiziU、SixTONES、松下洸平……Mayu Wakisaka×Joe Ogawa×Marcello Jonno、ジャンルの垣根越えるコライトの裏側

3者が語るコライトの裏側

3人の距離感や雰囲気はバンドみたいな印象がある

――JoeさんとMarcelloさんは松下洸平「リズム」をコライトしています。これはどのように作業を進めたんですか? 

Marcello:最初は僕が全部作ったんですけど、ビートの直しやベースラインの調整でJoeさんに助けてもらいました。

Joe:僕はビートを再構築するようなリミックス的な感じで作業しました。Marcelloが作ったものから引き算していくような作業でした。

Marcello:僕はオーバープロダクションのクセがあるんです(笑)。なので、いつも引き算してもらうんです。

――作り込みすぎてしまうということですか?

Marcello:いろんな音を足しすぎてぶつかっちゃう、みたいなところがあって。そこをきれいに引き算してもらって、それぞれの音がちゃんと成立するように仕上げてもらったんです。

――JoeさんとMarcelloさんのコンビだとそうなることが多い?

Joe:大体そうなりますね。僕が引き算役。Marcelloは足し算が得意なので(笑)。

――3人になると、その役割が変わりますか?

Joe:たとえば10のアイデアがあったら、僕とMarcelloで5にして、Wakisakaさんに行って3にして頂く感じですね。

Wakisaka:そんなに減らしてる(笑)?

Joe:いい意味で(笑)。

Marcello:すっきりしていくっていうことです。

Joe:そう。濾過されていく感じ。

Wakisaka:確かに。メロディを乗せる前提でトラックを聞いたときに、心音にブレがあるとめっちゃ乗せにくいんです。たとえばドラマーが2人いるバンドみたいな状態になっていたりすると、「あれ、歌いづらいな」ってなる。それを私は曲のパルスと呼ぶんですけど。

――曲のパルス?

Wakisaka:この曲のハートビートは、(ゆったりと)ドクドクドクなのか、(小刻みに)ドッドッドッなのか。音を足すときに、ドクドクドクに併せてポクポクポクみたいに入っていればいいんだけど、ポックッみたいなちょっとズレたリズムが入ってると歌いづらくなる。大縄飛びで言うと、大きく縄を回してる中で急にヒュンっていうやつが入ると「ここで絶対メロディ、つまずくわ」ってなるんです。そうしたリズムの飾り付けはオシャレだと思うし、いい音なんだけど、「ちょっとよろしいでしょうか……」って2人に申し入れて(笑)。

Joe:それがあったら僕らは即座に直します。もうMayuさまの仰るとおり、みたいな(笑)。

Marcello:テンションコードの中の1個だけ他と当たったりしていたりする場合もヤバい(笑)。

Wakisaka:そう。「申し訳ないんですが……」って。「私が通る道はきれいに舗装されてないと」みたいな(笑)。

――でも、Marcelloさんとしては、そこに構築美を求めているわけですよね。「ここに、この音やリズムが入っているからイケてるんだ」みたいな。複雑だから面白いんだよとか。

Marcello:個人的にはトリッキーなことが好きなんですけど、それがメロとぶつかっちゃうことがあるんですよね。それはいけないことだから抑えるようにしてます。

Joe:なるべく、Less is more。

Marcello:そう。ミニマリズムをめざす。

Joe:作っている側は1つの曲を何時間も聴くのでわからなくなってくるんですよ。特にミックス前だと、音数が少ないとこれでいいのかな? って不安になっちゃう。それで足して行っちゃうんだと思う。

Marcello:物足りなくなっちゃうんです。

Joe:僕の場合はミックスを前提に作るので、彼のアイデアを引きやすいんです。だけど、それでもWakisakaさんに行くと「いや、ここは要らない」となるので、その濾過作業がいい感じにこの3人では回ってると思います。

――皆さんは、さまざまな方とコライトしていますが、この3人で作業すると自分のこういう部分が出る、みたいなところはありますか?

Joe:MarcelloとWakisakaさんには、自分の悪いところをわかってもらえてるんですよね。だから、それをちゃんと修正してもらえるところが助かります。初めてコライトする方だと自分の色が出過ぎちゃったりするんです。それがたまに悪い方向に行ったりするんですけど、それを修正してくれるので結果的にイメージしやすい曲になりますね。

――自分の悪い所というのは?

Joe:僕の悪いところはトリッキーにしがちとか、わかりづらくしすぎちゃうんですよ。

Wakisaka:もしかしたら、本人はわかって作ってるから気にならないと思うんですけど、「これ変拍子なんですか?」みたいな感じになってると、ダンサーさんや歌う子たちも「どこで入るの?」ってなるから。「ドラムのフィルインとかでわかりやすく、どこが1拍目になるか教えていただけないでしょうか」みたいな、そういうやりとりはありますね。

Marcello:トップラインとトラックメイクで発想が違うんですよね。僕らは「ここにメロディを入れてもらいたいから、このビートを抜いておく」と考えるんだけど、それはWakisakaさんには初見で伝わらない。だから、あとからそういう修正をしたほうがいいんです。

Wakisaka:そういうときは逆にアイデアをもらって作る場合もあるんです。こないだも「ここに2拍足されているけど?」と思ったら、Joeさんから「トップラインでここにこういう2拍分のフレーズが入るんです」という指示があった。そうなると「なるほど」となる。そういうやりとりですね。

――Marcelloさんは、このチームで作ると、自分のどんな部分が出ますか?

Marcello:自分はパッと浮かんだものをそのまま落とし込んで2人に送っちゃうことが多いんです。そうすると、ちょっと足りないねとか、もうちょっと考えてと言われることが多いので、煮詰める作業をもうちょっとやらないといけないなと思っています。

――裏返せば、Marcelloさんのインスピレーションをダイレクトに出せる場でもあるということですよね。

Marcello:そうですね。完成形じゃなくても2人に提案すれば絶対によくなるという信頼があるので。

Wakisaka:単純に言うと、この2人にはわがままを出しやすいっていうのが仕事のやりやすさに繋がっていますね。「これだと歌入れをしにくいから直してほしい」とか「コードが足りないから加えてください」とか、そういうことを気軽に言える人柄というのがありがたい。この3人の距離感や雰囲気はLINEとZoomでやるバンドみたいな印象があるんです。

Marcello:そうですね。

Wakisaka:ギター弾くヤツ、ドラム打つヤツ、メロ書くヤツみたいな。LINEとZoomで活動する大人のバンドみたいな感じ。もともと私たちは3人ともバンド経験者だし、「お前のそのギターのリフいいな」みたいな感じから始まっていく、そのカタチが心地良いんです。最近、音楽業界で、こういう作り方がコライトというカタカナ語になって楽曲のシグネチャーのように受け止められていますけど、根っこはバンドとしてジャムセッションしているときの楽しさとか面白さがある。それができているというのが自分にとっての魅力です。

――ソングライターの視点で、JoeさんとMarcelloさんが作るトラックにはどのような特性があると思いますか?

Wakisaka:異なるカラーが混じっているのが面白いなと思います。それこそ「Blue Moon」もMarcelloの鳴きのギターとJoeさんのバウンスするリズム。そういう違う要素が1つのトラックの中に混ざり込んでいるのが特徴かなと。別曲だと、Marcelloだからこそ、ブラジリアンな感じがあったりとか。

――いろんなカルチャーが共存しているトラックということですよね。

Wakisaka:職業柄、いろんな作家さんからトラックを頂きますが、「これってザ・ヒットソングだな」と思えるような完全に出来上がったトラックをくださる方もいて。それと比べると、私たちが作るものはものすごく荒削りではあるんですけど、逆にそこからしか出てこない面白さがある。あとコンペの話でいうと、そういう荒削りさが大事だと思うから、オーダーのまんまで作らないようにしてるんです。

Marcello:そうですね。

Joe:そうそう。

――荒削りが大事というのは?

Wakisaka:もっと巧い人たちがたくさん作ってくるから。たとえばドージャ・キャットみたいな曲がほしいと言われたとして、私たちが頑張ってドージャ・キャットに似せて作っても、そのコンペにアメリカのドージャ・キャットのプロデュースチームが楽曲を送ってくる可能性もあるわけだから。そうなると百戦錬磨の作家たちと真っ向勝負になる。

Marcello:そうなったらユニークさで勝負ですよね。

Wakisaka:ブラジルのシュラスコに醤油をかけて、ちょっと味噌炊きにしてもらう、みたいな(笑)。そういう方が作るときに気持ちが楽なんですよ。ジャスティン・ビーバーとザ・キッド・ラロイの「Stay」みたいな曲とか言われても、ジャスティン・ビーバーが作ったものに勝てないから。どうやって勝てるんだろう? と考えたところで答えが出ない。

――あるいは、二番煎じにしかならない。

Wakisaka:そう。だったら、ちょっとその要素を取り入れながら違うものを作る。ピザの上にキムチ載せたり照り焼き載せたり。パスタに納豆入れたらめっちゃ旨いぜみたいな。

――最後に、この3人でこういう曲を作ってみたいなど、今後の目標はありますか?

Wakisaka: K-POPとかJ-POPとか、その垣根を越えたものを作りたいです。“K-POP”と考えると「これをやらねば」っていうのが出てくるし、“J-POP”と考えると、それもそれで「これをやらねば」が出てくる。それが仕事なんですけど、一旦それを置いて、どこの国の誰が聞いても「これ、オモロ」みたいな。「これ、知らん。これ、聞いたことない」みたいな曲が作れたらいいなと思います。それは別に突拍子もないアイデアということではない。「Blue Moon」を聞いた外国の方が「きれいなメロディだね」って思ってくれたら、それはそれで嬉しいし、そうやって垣根を越えたものが作れたらいいなと思います。

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Mayu Wakisaka Sony Music Publishing オフィシャルサイト
https://smpj.jp/songwriters/mayuwakisaka/

Joe Ogawa Sony Music Publishing オフィシャルサイト
https://smpj.jp/songwriters/joeogawa/

Mayu Wakisaka  オフィシャルサイト
https://www.marcellojonno.com/

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