Adoが変えた日本の音楽シーンの“基準” 新たな歴史を築いた軌跡、『Adoのベストアドバム』を柴那典が解く

Adoが変えた日本の音楽シーンの“基準”

 Adoの登場は日本の音楽シーンの“基準”を変えてしまった。

 鮮烈なインパクトをもたらしたデビューから5年。4月9日にはこれまで発表してきた楽曲を選んだ全40曲入りのベストアルバム『Adoのベストアドバム』がリリースされる。そこにあるのは、Adoがいかにして唯一無二の存在になってきたかという軌跡でもある。

 最初は“現象”だった。2018年頃からボーカロイドシーンや歌い手の界隈では図抜けた歌唱が評判を呼び、名を広めていったが、世の中に一気に名を広めたのは「うっせぇわ」がきっかけだったはず。『2021 ユーキャン新語・流行語大賞』の新語・流行語大賞にもなるくらいの爆発力だったが、その後もその勢いはとどまることは一切なかった。今振り返ると、当時の話題性の中心はあくまで楽曲のインパクトで、Adoという歌い手のポテンシャルはそこにおさまりきらないほど巨大なものだった。ベストアルバムの並びで聴くとあらためてそのことに思い至る。

 Adoのもたらしたインパクトはどういうものだったのか。

 そのひとつは、“歌唱力”というものがどういうものか、それがトップレベルであるというのはどういうことかを明確に示したことだろう。そもそも「歌が上手い」というのは、ピッチとかビブラートとかリズム感とかそういう単なる技巧的な問題だけを示すものではない。それはあくまでカラオケレベルの話で、プロフェッショナルなシンガーはみなその先の領域で歌を磨いている。それは当たり前のこととして、これまで「情感が伝わる」とか「魂がこもっている」みたいな曖昧な物言いになりがちだった“その先の領域”を、誰が聴いてもはっきりとわかる歌声の表現力でわからせたのが大きい。いくつもの声色を自在に使い分け、とてつもない声量のシャウトや迫力あるがなり声、伸びやかなファルセットや親密な囁き声など複数の歌い方を次々と繰り出す。「楽曲の世界観を表現する」というよりは「歌で楽曲を支配する」とでも言うべき歌声。ベストアルバム収録の楽曲でそれを最も強く感じたのは「愛して愛して愛して」だった。昨年3月に『Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish”』ロサンゼルス公演で披露したライブパフォーマンスも圧巻だ。

【LIVE映像】愛して愛して愛して PEACOCK THEATER Los Angeles, CA 2024.3.29【Ado】

 もうひとつは、その活動のあり方がもたらした音楽カルチャーの革新だ。デビュー当初は「素顔を見せない」とか「顔を出さない」みたいに「◯◯しない」という言い方でメディアから紹介されることも多かったが、今はもうそんな取り沙汰のされ方をすることもほぼなくなった。これは全般的な時代の潮流の変化かもしれないが、Adoの場合はライブでの卓越したパフォーマンスで有無を言わせぬ説得力を見せてきたのもポイントだと思う。ベストアルバムの限定盤には2022年4月にAdoがZepp DiverCity(TOKYO)にて行った初ライブ『Ado 1st LIVE「喜劇」』の映像も収録される。筆者は生で観たが、徹底した演出コンセプトで別世界のようなステージを形作り、シルエット姿ながら生身のメッセージを届けるAdoのスタイルには初々しさのようなものはいい意味でまったく感じなかった。その4カ月後の2022年8月のさいたまスーパーアリーナでの2度目のワンマンライブ『Ado 2ndライブ「カムパネルラ」』では、もはや貫禄を感じさせるほどの完成度と迫力だった。2024年には初のワールドツアー『Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish”』と2日間で14万人を動員した国立競技場でのワンマンライブ『Ado SPECIAL LIVE 2024「心臓」』が実現。2025年4月からは世界30都市以上をまわる日本人アーティスト最大規模のワールドツアー『Ado WORLD TOUR 2025 “Hibana” Powered by Crunchyroll』も始まる。破格のキャリアだが、そのスケール感は最初から飛び抜けていた。活動を通してセルフプロデュース能力の高さを見せていったのも大きい。

【Ado】喜劇 on April 4th, 2022 at Zepp DiverCity(TOKYO) Teaser

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