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NiziU、SixTONES、松下洸平……Mayu Wakisaka×Joe Ogawa×Marcello Jonno、ジャンルの垣根越えるコライトの裏側
ソロのシンガーソングライターで現在は主に作詞家・トップライナーとして日韓のアーティストに楽曲を提供するMayu Wakisaka。DJ・プロデューサーとして海外を飛び回った知見を生かし、多くのダンスボーカルグループからトラックメイクのオファーを受けるJoe Ogawa。ブラジル・サンパウロ出身で日本を拠点にするシンガーソングライターのMarcello Jonno。ルーツの異なる3人は、非対面型のコミュニケーションツールを駆使した現代的な方法で楽曲を生み出しているという。今回は3人の共作によるNiziU初のバラード「Blue Moon」を中心に、制作に携わったSixTONESや松下洸平の楽曲を振り返りながら、チーム内での役割や、個々の作家としての特性、さらに3人だからこそのコンペ攻略法など、ユニークなコライト作業の進め方を語ってもらった。(猪又孝)
いろんな世界観が入り交じるサウンドにしたかった
――2022年11月にリリースされたNiziUの「Blue Moon」は、どのように楽曲制作が始まったんでしょうか?
Mayu Wakisaka(以下、Wakisaka):バラードを作るにあたって、まずはリズム感を考えました。「今回はバラードだな」と思えるようなアコースティックな感じから始まりつつ、NiziUだからサビは踊りたかったら踊れるし、歌いたかったら歌えるというようなグルーブ感ならハマるんじゃないかなと思って。
――そのイメージを3人で共有するところから始めたんですか?
Joe Ogawa(以下、Joe):3人のLINEグループがあるんです。いつもそこに「こんな感じで行こうか」と送りあってライトに始まることが多いですね。
Wakisaka:LINEでブレストするんです。NiziUは、先ほどのアイデアを私から出していきました。
――そこからの作業工程は?
Joe:最初にMarcelloがアコースティックなギターとラフなビートを作りました。
Marcello Jonno(以下、Marcello):しっとり始まって、どんどん展開がついていって、サビで派手になるというイメージで作りました。なので、ギターのアルペジオから始めたんです。
Joe:僕もMarcelloも、「Ableton Live」という同じDAWソフトを使っているので、Marcelloが作ったそのプロジェクトファイルをLINEで送ってもらって、それを僕がブラッシュアップしたんです。で、「ビートはこんな感じでどうですか?」と、またLINEに戻す。
Wakisaka:そのときに、もうちょっとコードを足したいと思ったから、私がMIDIでそれを作って、またLINEに送って。
Joe:それを僕がトラックに反映させてビートの落とし込み、そこからトップラインの作成が始まりました。「Blue Moon」は結構スムーズに作業が進みましたね。Wakisakaさんからメロディが返ってきた時点で、作品の全体像が見える仕上がりでした。
――「Blue Moon」は、Aメロ、Bメロ、サビとパート毎にビートが変化していくトラックになっています。どのような意図があったんでしょうか。
Joe:バラードだけど振り付けもできるようなトラックを考えたんです。なので、いろんな世界観が入り交じるサウンドにしたかったし、踊れることを考えたときにフックはちょっと派手なビートを意識しました。
――NiziUなどの大人数グループの場合、歌のパート分けがあります。そこはトラックメイクやメロディ制作の段階から考えているんでしょうか。
Wakisaka:グループや楽曲によりますね。基本、パート分けはアーティストのイメージに密接するのでレーベル側やマネジメント側でされるんですけど、作るときになんとなくイメージはします。この子の声だとこういうふうに聞こえて良い感じになるかな? とか。あと、楽曲提供するときは、過去の楽曲を聴いてトップノートはこれくらいだときれいに聞こえるかなとか、メインのシンガーの音域を考えて作りますね。
Joe:僕もイメージはします。なので、なるべく展開がわかりやすいビートを作ることを心掛けています。
Wakisaka:Joeさんはしっかり展開を色分けしてくれますよね。ダンサーが多いからダンスブレイクをあらかじめ入れておくとか。
――同じメロディでも歌詞の1番と2番でビートが変わっていたり、音が抜き差しされるケースがあります。そういう部分もあらかじめ作っておくんでしょうか。
Joe:たとえば1ヴァース目は通常のビートだけど、2ヴァース目はDrillにするとか、そういうのは考えますね。あとはトラックからビートを抜いてラップが前に出てくるようにしておくとか。でも、多くの場合はトップラインができあがってから、サンプリング的な考えで作ります。メロディのデータを切り貼りして作ることが多いですね。
――グループとソロシンガーでは楽曲作りに違いはありますか?
Joe:ちょっと違うかもしれないです。ソロシンガーだとそこまで展開させないことが多いです。
Wakisaka:メロディ作りは自然と違ってきますね。ひとりでいろんなキャラクターを演じ分けるのは難しくなっちゃうから。グループだといろんなキャラクターが出せるようなメロディを考えるし、ソロシンガーの場合は一貫したキャラクターで歌えるようにします。
――2022年12月に発売されたBBMのデビュー曲「Butterfly」は、どのように作っていったんでしょうか。
Marcello:Joeさんのビート先行だったように思います。
Joe:ビートとコードをMarcelloに渡して、それをちょっとだけ展開してもらって。
Wakisaka:そのあとトップラインは3人で一緒に考えました。
Joe:これはZoomで対面せずに作りました。大抵、リアルで会わないんですよ。オンラインで作っちゃう。
――メロディをオンラインでどのように作るんですか?
Wakisaka:みんなそれぞれ自分のDAWで何パターンかメロディを考えるんです。次に、歌入れする人がホストになってZoomを開く。その人にメロディのデータを送って、Zoomの画面を共有して作っていくんです。このときはMarcelloが歌入れ担当だったから、Marcelloに「私が作ったメロはこれ」、Joeさんからも「これ」と送って。
Marcello:そのアカペラをDAW上に並べて、いったん全部聞いて、「じゃあ、ヴァースから決めていきましょうか」って始めるんです。その中のどのメロが良いか、パズルみたいに作るんです。
Joe:いいとこ取りをしながら組み合わせていくんですよ。
Marcello:だから、誰かが考えたブリッジをヴァースに持ってくることもあるし。
――Aメロの中で誰かと誰かのアイデアが合体することも?
Wakisaka:あります。
Joe:音程的に繋がらないところはホストが細かく歌い直して微調整していったり。なので、僕たちは9割9分会わない。LINEとZoomで済んでるんです。
――「Butterfly」の歌詞は、どのように作っていったんですか?
Marcello:僕が英語で初稿を考えて、そのあとWakisakaさんにアップデートしてもらいました。
Wakisaka:クライアントさんからBBMの「Beauty By Men」というコンセプトは聞いていたんです。恋愛を絡めつつ美しさを意識した歌詞にしたいという要望があって。それより前のデモの段階でMarcelloが出していたタイトルが「Butterfly」だったんです。最近の男子って昔と比べると髪型も素敵だし、オシャレだと思うんです。男子高校生とか、女子よりマメに美容室に行ってそうなくらいきれいな髪の毛をしてる。今どきの男子は好きな子のために「スポーツ頑張ろう」じゃなくて「きれいにしよう」っていう子が多いだろうなと思って。そういう意味で、ひらひらと飛ぶ蝶々の女の子のために綺麗な花になるんです。男子が。僕が花になるよと。女性を花に例えるパターンは多いけど、僕が蝶々のように移り気な君のために、綺麗になるというテーマにしたら合うなと思って、Marcelloが書いた元のフレーズを活かして日本語の歌詞を作りました。
――JoeさんとWakisakaさんはジェシー×森本慎太郎(SixTONES)の「LOUDER」を共作しています。MarcelloさんはSixTONES「Your Best Day」「Good Times」を作詞しています。SixTONESのクリエイティブで心掛けていることはありますか?
Marcello:僕が作詞に関わった曲は男らしさというよりも、前向きな感じとか、1日がいい日になりますようにとか、そういうイメージでした。でも、曲によってはクールさを大事にしながら書くこともあります。
――いろんな要素を表現できるわけですね。
Wakisaka:それができるのがアーティストの魅力のような気がします。2ndアルバムの『CITY』は、ニュージャックスウィングとかゴスペルとか、いろんな洋楽の要素を取り入れて作っているし、キャラ設定もいろいろ。やんちゃな曲もあれば、彼女にふられて泣いてるような曲もあったりとか。それを演じて歌うことができるのがSixTONESの魅力なんだと思います。
――ひとりの作家としていろんなキャラを書くのは面白い作業ですか?
Wakisaka:いろんなキャラを書けるのは楽しいですよ。毎回「あなたのことが好き」だけで書いてたら胸が高鳴りすぎて苦しくなる(笑)。ボーイズグループでたまにフラれた歌詞を書くと胸がスッとするというか、心が穏やかになります(笑)。
――演じるという観点で言うと、映画やドラマの脚本のように当て書きで歌詞を作ることはありますか?
Marcello:ここはこのメンバーさんに歌ってほしいというイメージで書くことはあります。事前にパート分けが決まっているわけじゃないけど、この人だったらコレがかっこいいだろうなという一方的なイメージで作ることもあるし、それが採用されることもありますね。