米津玄師、UA、徳永英明……名曲をペンタトニックスケールから解説 『Kan Sano Talks About Pop Music』第5回(後編)

米津玄師やUAの名曲をKan Sanoが解説

さらに複雑に進化した米津玄師「Lemon」

 UAさんの「情熱」のような曲が出てきて、ペンタトニックスケールの使われ方もかなり出尽くした気がしていたんですけど、2010年代では、例えば米津玄師さんの「Lemon」(2018年)のサビにペンタトニックスケールが使われています。僕はこの曲から、ペンタトニックスケール特有の“わかりやすさ”をあまり感じていなかったので、調べて気づいた時にはびっくりしました。

 聴いていてもなんとなく難しさがわかると思うんですけど、メロディが十六分音符主体のフレーズになっていて、「情熱」と同じような跳ねるリズムが「Lemon」でも使われています。音の飛び方も激しい上に、最も特徴的なのはサビの「ダラ、ダラ、ダラ」というメロディですね。ありそうでなかった不思議なリズムを取っていて、重複しながら韻を踏んでいる感じにも近いので、米津さんはラップミュージックやヒップホップも聴いて育っている人だという印象を持ちました。

 1990年代の音楽よりもさらに複雑になっているので、「Lemon」はカラオケで歌うのも相当難しいと思います。ペンタトニックスケールって本来は歌いやすいフレーズを作るときに向いているスケールなんですけど、それを使ってこんなに複雑な曲ができてしまうんだと驚きました。

米津玄師 MV「Lemon」

Kan Sano「My Girl」でのペンタトニックスケール

 僕は「My Girl」という曲でペンタトニックスケールを使っています。八分音符主体でリズムはシンプルなんですけど、ハーモニーが途中で少し転調するようなコードが入っていて、2つのハーモニーを行き来するように聴こえるのが特徴です。僕はシンプルなメロディが好きなので、歌っていくうちに、ペンタトニックスケールを使った歌いやすいフレーズに自然と行き着いたのかなと思います。

Kan Sano - My Girl [Official Music Video]

総括

 日本の音楽シーンで、ペンタトニックスケールがどのように使われてきたのかを調べてきましたけど、坂本九さんの「上を向いて歩こう」(1961年)から順番に辿っていくと、進化していることが改めてよくわかりました。ペンタトニックスケールは、古くは「赤とんぼ」などの童謡で使われてきて、日本人にとっては馴染み深いスケールで、それが形を変えて米津さんのような現代の音楽でも使われている。しかも、その使われ方がどんどん複雑になってきて、今ピークを迎えつつある気がするので、今後ペンタトニックスケールがどのように変化していくことになるのか、すごく興味深いですね。

『Kan Sano Talks About Pop Music』バックナンバー

第1回(前編):The Beatlesを解説
第1回(後編):The Beatles、J-POPに与えた影響
第2回(前編):スティービー・ワンダーから学んだピアノ奏法
第2回(後編):スティービー・ワンダーのコード進行とJ-POPへの影響
第3回(前編):ディアンジェロがもたらした新しいリズム革命
第3回(後編):ディアンジェロやJ・ディラがJ-POPに与えた影響
第4回(前編):山下達郎が奏でるハーモニーの秘密を実演解説
第4回(後編):山下達郎の影響を感じる楽曲と再評価の理由
第5回(前編):サザン、キャンディーズ……ペンタトニックスケールから解説

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