Kan Sanoが語る、スティービー・ワンダーのコード進行とJ-POPへの影響 『Kan Sano Talks About Pop Music』第2回(後編)

Kan Sanoが語るスティービー・ワンダー(後編)

 ソロアーティストとして話題作をリリースする一方で、国内外の様々な作品のプロデュースや演奏にも参加してきたKan Sano。絢香、Uru、CHARAといったアーティストの作品に携わるなど、2010年代以降のJ-POPシーンのキーパーソンの一人だ。

 本連載『Kan Sano Talks About Pop Music』では、彼のルーツとなったアーティストを取り上げていき、そのアーティストの魅力や、現在の音楽シーンに与えた影響を解説してもらう。第2回目は、スティービー・ワンダーをピックアップ。後編となる今回は、スティービー・ワンダーのコード進行に秘められた“独特のスパイス”や、それが現行のJ-POPにどう影響を与えているかについて語ってもらった。

 なお本連載は動画でも公開中。動画ではKan Sano自身による実演を交えながら、スティービー・ワンダーの魅力を解説していく。(編集部)

【ヒゲダンや藤井風にも影響?】Kan Sanoが解説する、スティービー・ワンダーのコード進行

ヒゲダンや藤井風も使う“スパイスを効かせたコード進行”

 スティービー・ワンダーは特殊な裏コードを入れて流れを面白くさせるのが得意で、例えば「I7」を使うコード進行に裏コード(ドミナントコードの代理コード)として「bV7」を使ったりするんですけど、これって本来ジャズアーティストが使う複雑なコードなんです。こういうコードを一拍だけ挟むことで曲のスパイスになってるんですよね。藤井風さんの「罪の香り」やOfficial髭男dismの「Pretender」でも使われてます。

 藤井風さんは、ハーモニーの動きが細かくて、ピアノがうまい人の曲の作り方をされていますよね。一拍、二拍とか短い単位でコードが変わってたり、さらに♭とか♯が入った複雑なコードも入ってきたりもします。全体的には、馴染みのあるコードが使われてるんですけど、たまに複雑なものを入れることで豊かなサウンドになっている。一方で、Official髭男dismの藤原(聡)さんは、ロックとブラックミュージックの両方の側面をルーツに持ったキーボディストだと思います。先ほど説明したようなコードの使い方は間違いなくスティービーの影響だと思いますし、表現の幅の広さやスパイスを効かせたコード進行は、彼らの楽曲の魅力だと思います。

テンションノートによって生まれる浮遊感

 The Beatlesの回で、“Cメジャーの最後を「C」ではなく「Am」にするとグッとくる”という話をしましたが、スティービーやダニー・ハサウェイの場合は「Am」じゃなくて「A7sus4 9th」にするんですよ。「sus4」や「9th」のようなテンションノートを加えることで浮遊感が増してメロウになる。「sus4」ってマイナーコードでもメジャーコードでもなくて中間にあるから独特な浮遊感があるんですよね。元々存在しているコードに、ちょっとひねりを加えることで音が豊かになるんです。この手法は、僕も使っていますし、他のアーティストの楽曲でもよく使われています。例えばサカナクション「忘れられないの」では、通常「F#m」にするところを「F#7sus4 9th」にしているコード進行が随所にあって、それによって独特な甘さや切なさが生まれてますね。

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