『Kan Sano Talks About Pop Music』第3回
Kan Sanoが解説する、ディアンジェロがもたらした新しいリズム革命 『Kan Sano Talks About Pop Music』第3回(前編)
ソロアーティストとして話題作をリリースする一方で、国内外の様々な作品のプロデュースや演奏にも参加してきたKan Sano。絢香、Uru、CHARAといったアーティストの作品に携わるなど、2010年代以降のJ-POPシーンのキーパーソンの一人だ。
本連載『Kan Sano Talks About Pop Music』では、彼のルーツとなったアーティストを取り上げていき、そのアーティストの魅力や、現在の音楽シーンに与えた影響を解説してもらう。第3回目は、ディアンジェロをピックアップ。前編となる今回は、ディアンジェロが更新したリズムの捉え方について、Kan Sano自身のディアンジェロとの出会いや、『Voodoo』というアルバムを通して解説していく。
なお本連載は動画でも公開中。動画ではKan Sano自身による実演を交えながら、ディアンジェロの魅力を解説していく。(編集部)
ディアンジェロとの出会い
僕がディアンジェロを聴き始めたのは高校3年生くらい、2000年前後だったんですけど、当時ネオソウルが流行っていて、ディアンジェロ周辺のエリカ・バドゥ、ジル・スコット、コモンとか、いろいろな人が出てきて。ネオソウルというのは何かというと、70年代のソウルを新しく蘇らせて、当時の質感やフレーバーを残しつつ、新しいものにしている音楽なんです。その代表がディアンジェロですね。
ディアンジェロが更新したリズムの捉え方
ディアンジェロが一番すごいのは、リズムの捉え方を更新したんですよね。ディアンジェロだけじゃなくて、周辺にいたThe Rootsのクエストラブというドラマーや、J・ディラもそうで、新しいリズムの捉え方を発明したと言ってもいいと思うんです。1拍って、四分音符が1つ、その中に八分音符が2つ、さらに細くすると十六分音符が4つというふうにできているんですけど、それまでリズムは、それらをきっちり分けて演奏していたんですね。音符の長さを全部同じように正確に、同じ長さで演奏していて。でもディアンジェロたちはもっとよれさせて、「最初の八分音符は長いけど、次の八分音符はちょっと短い」みたいなルーズな演奏をするようになっていって、それがカッコいいことを提示したんです。それを聴いて、最初は「おかしくないか?」みたいに言う人もいたんですけど、みんなだんだんそのカッコよさに気づいていって。それが2000年代前半なんですけど、中心にいたのがディアンジェロなのかなと。
『Voodoo』の衝撃
ディアンジェロが捉え方を更新したリズムは『Voodoo』というアルバムに一番よく表れています。ドラムって、キック、スネア、ハイハットという大きく3つの要素でできているんですけど、ディアンジェロは、例えばハイハットがキックとスネアに対してちょっと後ろになるように演奏するんですよ。微妙にズレて遅れていたりとか。手拍子のクラップも本当はスネアに合わせて叩くんですけど、それもちょっと遅らせていたり、そういうことをいっぱいやっています。このビートがよく表れているのが「The Root」という曲ですが、アルバムのどの曲もほぼこういうリズムパターンになっています。
僕が『Voodoo』を初めて聴いたのは高校生の時だったんですけど、最初はよくわからなくて。でも、ボストンに留学して音大に行ったら、実際にそのリズムで演奏している生徒たちがいっぱいいて、それを見たときにめちゃくちゃカッコいいことに気づきました。