『Kan Sano Talks About Pop Music』第5回
サザン、キャンディーズ……Kan Sanoがペンタトニックスケールから解説 『Kan Sano Talks About Pop Music』第5回(前編)
ソロアーティストとして話題作をリリースする一方で、国内外の様々な作品のプロデュースや演奏にも参加してきたKan Sano。絢香、Uru、CHARAといったアーティストの作品に携わるなど、2010年代以降のJ-POPシーンのキーパーソンの一人だ。
本連載『Kan Sano Talks About Pop Music』では、彼のルーツとなったり、愛聴していたというアーティストを取り上げていき、そのアーティストの魅力や、現在の音楽シーンに与えた影響を解説してもらう。第5回目は、さまざまなポップスに多用される“ペンタトニックスケール”と呼ばれる音階に注目。1960年代以降の日本の名曲を通して、どのようにその使われ方が変わってきたのか、それによってポップスがどのように進化してきたのかを辿っていく。
なお本連載は動画でも公開中。Kan Sano自身による、坂本九「上を向いて歩こう」、キャンディーズ「年下の男の子」、サザンオールスターズ「いとしのエリー」などの実演を交えながら、ペンタトニックスケールの変遷を解説していく。(編集部)
【オリジナル動画】Kan Sano、サザンやキャンディーズの名曲を実演解説
ポップスで多用されるペンタトニックスケールとは?
今回はペンタトニックスケールに注目して、日本のポップスの中でどのように使われてきたのか、いろいろ解説していきたいと思います。
まず、ペンタトニックスケールについて説明します。スケールというのは音階のことなんですけど、一番有名なスケールは「ドレミファソラシド」という小学校でも習うもので、これはダイアトニックスケールと呼ばれる7音からできているスケールなんですね。ペンタトニックスケールは、この「ドレミファソラシド」から「ファ」と「シ」を省いた5音のスケールのことを言います。音が少なくなった分シンプルになっていて、キャッチーで覚えやすいフレーズが作りやすくなるスケールだと思います。
世界中の音楽でペンタトニックスケールって古くから使われていて。日本はもちろん、アジアの音楽や民族音楽として使われていたり、ヨーロッパでもスコットランド民謡などに使われていたりします。ペンタトニックスケールで構成された日本の古い曲の1つの例として、童謡の「赤とんぼ」があるんですけど、ちょっと懐かしさが感じられたり、シンプルだけど奥行きのあるメロディが特徴です。あと、ペンタトニックスケールにはメジャースケールとマイナースケールの2つがあって、「赤とんぼ」で使用されているのはメジャースケールなんですね。対してマイナースケールだと、ブルースとか古いルーツミュージックで使われていたりしますし、ギターで弾きやすいスケールなんですよね。アドリブで弾くギタリストの方もよくいます。
ペンタトニックスケールの使われ方 〜1960年代〜
ペンタトニックスケールがポップスの中でどのように使われてきたのか。まず1960年代、坂本九さんの「上を向いて歩こう」(1961年)という有名な曲がありますけど、まさにペンタトニックスケールでメロディが作られている曲になります。スケールが5音で構成されていて、リズムもすごくシンプルに四分音符でずっと続いていく曲なんですね。キャッチーで歌いやすいし覚えやすいし、ポップスに向いてる使われ方だなという印象があります。ペンタトニックスケールってメロディがシンプルな分、単調に聴こえてしまいがちなんですけど、「上を向いて歩こう」はハーモニーが暗いコードに行ったり、明るいコードに行ったりして豊かに動いていくので、単調にならない、いい曲になっているなと感じます。
60年代全体を総括するのは難しいんですけど、やっぱり「上を向いて歩こう」は60年代を代表する曲ですし、ペンタトニックスケールの使われ方としても象徴的なんじゃないかなと思っていて。日本っぽさがすごく残っていてシンプルなんですけど、それ以前の童謡や民謡と比べると、少しだけ洋楽の香りもするというか。コードの使い方や合わせ方のセンスだと思うんですけど、それが60年代らしさなのかもしれないですね。
ペンタトニックスケールの使われ方 〜1970年代〜
1970年代の日本のポップス、歌謡曲について取り上げていきます。まず、キャンディーズ「年下の男の子」という曲について。キャンディーズは他にもペンタトニックスケールを使った曲がたくさんありますけど、60年代の「上を向いて歩こう」に比べると音程の上下が増えて、ちょっと難しくなってきているんですね。「年下の男の子」は最後にペンタトニックスケール以外の音が少し入ってきていて、そういう味付けも感じられます。でも、リズムとしてはまだ細かい音符は入っていなくて、あくまで八分音符までが主体になった比較的シンプルなビートで構成されています。メロディも歌いやすくて覚えやすいものになっているので、まだ60年代の延長にあるような印象の曲です。