米津玄師、UA、徳永英明……名曲をペンタトニックスケールから解説 『Kan Sano Talks About Pop Music』第5回(後編)
ソロアーティストとして話題作をリリースする一方で、国内外の様々な作品のプロデュースや演奏にも参加してきたKan Sano。絢香、Uru、CHARAといったアーティストの作品に携わるなど、2010年代以降のJ-POPシーンのキーパーソンの一人だ。
本連載『Kan Sano Talks About Pop Music』では、彼のルーツとなったり、愛聴していたというアーティストを取り上げていき、そのアーティストの魅力や、現在の音楽シーンに与えた影響を解説してもらう。第5回目は、さまざまなポップスに多用される“ペンタトニックスケール”と呼ばれる音階に注目。前編に続き、1990年代以降のJ-POPに注目しながら、どのようにその使われ方が変わってきたのか、それによって楽曲がどのように進化してきたのかを辿っていく。
なお本連載は動画でも公開中。Kan Sanoによる、米津玄師「Lemon」、UA「情熱」、徳永英明「壊れかけのRadio」、自身の楽曲「My Girl」の実演、さらに前編の記事で紹介したサザンオールスターズ「いとしのエリー」の豪華1コーラス実演なども交えながら、ペンタトニックスケールの変遷を解説していく。(編集部)
【オリジナル動画】米津玄師「Lemon」やUA「情熱」をKan Sanoが実演解説
ペンタトニックスケールの使われ方 〜1990年代〜
ペンタトニックスケールは1990年代にもいろいろな曲で使われているんですけど、今回は徳永英明さんの「壊れかけのRadio」(1990年)を挙げてみました。この曲は、サザンオールスターズ「いとしのエリー」(1979年)以降の、洋楽がJ-POPのメロディにまで影響してきている時代の音楽だなと感じます。メロディが16ビートになっているんですけど、繰り返しのフレーズが多いので、そこでシンプルさを保って歌いやすくなっている印象ですね。サビのメロディの最後に1箇所だけペンタトニックスケール以外の音が少し入っているんですけど、それもちょっとしたアクセントになっていて効果的だと思います。
特異なリズムを歌い上げるUA「情熱」
1990年代後半になると渋谷系のような音楽がどんどんシーンに出てきましたが、UAさんやMONDO GROSSOが出てきた影響は大きかったと思います。なかでもUAさんの「情熱」(1996年)では、サビでペンタトニックスケールが使われているんですけど、「いとしのエリー」の頃に比べるとまたちょっと変わってきている印象があって。跳ねる十六分音符のリズムになっているんですよね。細かいフレーズの中に、跳ねるニュアンスが加わることで、より粘りがあってグルーヴ感が強調されるリズムになっていて、歌うのがかなり難しい曲になっています。厳密に言うとペンタトニックスケール以外の音も少し使われているんですけど、音の上下の激しさというか、隣の隣の隣くらいの離れた音まで一気に移動することも複雑さの特徴だと思いました
宇多田ヒカルさんやMISIAさんなど、1990年代後半にはソウル系のシンガーがたくさんJ-POPシーンに出てきた中で、UAさんはその先駆けになった人でもあると思うんですよね。リズム感が良くて、歌が上手くないと「情熱」のようなメロディは歌えないので、そういうシンガーが出てきたからこそ、ペンタトニックスケールの使われ方も進化できた時代だったんだと思います。