MUCCが1990年代から2025年へと繋いだ音楽 YUKKEが語る、アルバム『1997』に刻まれるバンドの物語

MUCCが繋いだ1997年と2025年

 MUCCが、2025年第1弾作品として、“3度目のメジャーデビュー”となる徳間ジャパン移籍後初のフルアルバム作品『1997』をリリースした。MUCCの結成年『1997』を冠したタイトルからわかるように、アルバムのコンセプトは“1990年代”である。今回リアルサウンドでは、YUKKE(Ba)にソロインタビュー。MUCCは、そしてYUKKEはどのようにその時代を、1997年を過ごしていたのだろうか。1997年のMUCCが2025年のMUCCに繋いだ物語を紐解く。(編集部)

1990年代の音楽は「初めて音楽に触れた時に鳴っていた音楽」

MUCC

――アルバムタイトルは『1997』。MUCCの結成年1997年のことでしょうか。

YUKKE:そうです。「結成年をテーマにしよう」というコンセプトよりは、90年代をオマージュのもとにしたものにしようというコンセプトで、アルバムを作ろうと入ったのがきっかけです。アルバムタイトルは制作の作業中にリーダーのミヤから「1997は?」という提案があって、ストンと「それがいいね」という感じで決まりました。

――じゃあオマージュのもとになっているのは、皆さんがその当時聴いていたもので?

YUKKE:そうですね。個人的に70年代、80年代より90年代の音楽というと、自分たちが中高生で、初めて音楽に触れた時に鳴っていた音楽なので、いちばん染み付いているというか。今回はそういうコンセプトだったので、個人的にもわかりやすく作曲に入っていけましたね。

――アルバム先行で最初に出したシングル『愛の唄』のカップリング曲をYUKKEさんがお書きになっていて、これが結構キモになっているというようなことも聞きました。

YUKKE:ああ、「Violet」ですね。この曲はツアーとかではずっとやっていて。これももともと90年代というコンセプトがあって、個人的にはCOMPLEXであったり、氷室京介さんであったり、その時代のロックを反映させたつもりだったんです。そうしたら「それって80年代だよね」ってことに気づいて(笑)。80年代の曲を俺が90年代に聴いてたからそうなったんですですけど、そういう作曲方法で作っていて。MVも、当時を思い出すような言葉であったりをミヤが(歌詞に)書いてくれて、自分たちでしか表現できない色ができた感じですね。

――「Violet」のMVはずいぶんこだわりが詰め込まれているようですね。拝見しましたけど、ブラウン管TVをみんなで見ていたり、懐かしいバンドのポスターとかがあったりして、何度も観たくなります。

YUKKE:あれは当時の自分たち世代の部屋を再現して(笑)。友達の家に行ったら隣の部屋でその友達の兄ちゃんがロックを聴いていて、そこで流れている音楽に衝撃があって。MVのために1週間くらい関東中のハードオフに通って当時のものを買い集めて、コンポもかき集めて。中野ブロードウェイに行ってみたり。楽しかったです。

――そういうことを経て、アルバム『1997』に向かう気持ちがかたまっていったんですね。

YUKKE:ひとつわかりやすい指針ではありましたね。その一曲だけでは表現できなかった時代やバンドもたくさんあったので、アルバムとしてできるかな、と。16曲のボリュームになりましたけど、最初は11曲ぐらいで(アルバムを)作ってみようということだったんですけど、やっぱり作業に入ってオンモードになってしまうと、作業中にどんどん曲が増えていって(笑)。MUCCらしい形になったと思います。

――“『1997』のオマージュ元ネタ”という資料を事前にいただいているんですが、曲それぞれがどんなアーティストの曲へのオマージュかというのが具体的に書かれています。「この曲は○○○みたいな感じで……」と制作していったのかなと想像しますが、これ出しちゃっていいんですか?

YUKKE:もう出してますから全然いいですよ(笑)。そういうこともあったりなかったりですけど、レコーディングの現場は面白かったですよ。オマージュするにあたって、たとえば、キーボードの(吉田)トオルさんに弾いてもらうにあたって、「こんな感じの雰囲気で」と特定のバンド名が出てきて、「ああ、そんな感じか」という会話があったりとか。資料に書いてあるだけじゃなくて、フレーズとか細かいところまでいろいろ入っていたりするので、そういうところを聴くこともできるアルバムじゃないかな。フレーズひとつとっても「これ、○○○っぽいね」とか。

――そうですね。たとえば、YUKKEさんが詞曲を書かれた「△(トライアングル)」はオマージュネタに、King Crimson、Yesとありますが、イントロなどはまさにKing Crimsonっぽいですよね。

YUKKE:King Crimson、僕はそんなに聴いてたわけじゃなくて、MUCCをやり始めてから、ああいうプログレ要素が入った曲を過去に作ったから「少し知ってるかな?」ぐらいの感じだったんですけど。この曲自体は、2、3年前に作っていたんです。『新世界』というアルバムの時にも候補だった曲で。自分でも「誰が聴いてもこれはYUKKEの作曲だと思わないよね」と思うんですけど、そういうところを出したかったんですよね、当時は。

――自分のなかの普段は閉めている引き出しを開けてみる、みたいな感じでしょうか。

YUKKE:その引き出しは、友達の家で聴いてたり、当時通っていたライヴハウスでかかっていた曲とかなんですよね。それが、最近聴くものよりも頭のなかにこびりついているんですよね、90年代に聴いていた曲って、血に入っているというか。このアルバムって、聴くシチュエーションによってすごく変わるなと思っていて。ろっこく(国道6号線)っていう道があるんですよ、茨城に。水戸街道なんですけど、自分が18、19歳の車の免許取りたての時によく音楽聴きながら夜中とか走ってた道路で。そこをこないだ夜中に通って帰る時に、このアルバムを聴いてたらバチっとハマっちゃって。感極まっちゃって、とりあえず車を止めてツイートしたんですけど(笑)。なんかね、ばっちりきたんですよね。当時こういう言葉の歌詞の曲とかを聴いていた自分が今このアルバムを聴くと、25、6年前の自分と今の自分がこのアルバムを作ったんだ、という感覚になって。だから、それぞれが昔のシチュエーションに戻ってこのアルバムを聴いたら聴こえ方も変わると思うので、面白いと思います。

YUKKE

――たしかに、歌詞もそれっぽいというか。ミヤさん作曲でYUKKEさんが作詞の「LIP STICK」は、オマージュ元ネタにC-C-B、BOØWYとありますが、日本語と英語のミックス加減は氷室京介さんとかが書きそうな感じでもあるし、C-C-Bの曲のタイトルになりそうな気もします。

YUKKE:たしかに(笑)。C-C-Bを聴いてたりしてて、そこから作業に入ったのもあって、今までは曲単位で“匂いのするもの”を入れ込んでいたものが、今回はアルバム単位でこういうコンセプトでできたことで、リーダーのミヤもすごく楽しそうに作業してましたね。

――そうだったんですね。

YUKKE:あと、「△(トライアングル)」は過去の曲なんですよ。今回アルバムに入れるにあたって、ミヤが過去曲を聴いて「これは今回の作品に入れられるな」と思ってくれたみたいで、もう一度作業しました。作った順番で言ったら、アルバムのコンセプトを決めるよりもこの曲のほうが早いんですけど。

――曲を書いた時には90年代といったコンセプトではなくて、今作に入れることで、オマージュを込めたアレンジにしたんですか?

YUKKE:そうですね。(今回は)“90年代オマージュ”というキーワードがあったので、そういうアレンジが施されていきましたね。ほかの曲は、作曲自体も各々がそのテーマのもとで作り始めていきました。

YUKKE:めちゃめちゃ面白かったですね。「空っぽの未来」という曲は、もともとはバラードだったんですけど、ポップにアレンジしてもらって。オマージュネタにhideさんの「EYES LOVE YOU」と書いてありますけど、ひとつコンセプトがあると作りやすいなと思いましたね。今までは無限の可能性の中で作っていたので、ひとつワードがあると作業に入りやすいんだなと思って。

――なるほど。そういうコンセプトを立てることで遊び心も出てきますね。それにしても、曲を作る人は多かれ少なかれ誰かの影響を受けて、どこかにオマージュの気持ちも込めているんじゃないかと思いますが、今回のように堂々とオマージュの元ネタを公表することで、むしろ聴き手は共通認識を持ちやすくなるかもしれないですね。

YUKKE:そうですね。今回の“○○○っぽい”というのは、制作の現場でもみんなわかりやすかったですよね。

――このオマージュ元ネタを見ると、西海岸パンクからヴィジュアル系、J-POPなど幅広いですけど、普段からそういう音楽の話をメンバーの皆さんでされたりするんですか。

YUKKE:僕とかはそんなにしないかな(笑)。僕もそんなにたくさん聴いてきたほうではないので。むしろリーダーとかトオルさんが話してるのを聴いて「ふむふむ」と。

――楽曲制作とは違うところで、ベーシストととしてオマージュしたところもあるんではないかと思いますが。

YUKKE:自分のプレイからは感じにくいとは思うんですけど、THE MAD CAPSULE MARKETSは、メンバーが好きで機材車でよくかかってたから、ベースのサウンドもかっこいいなと思っているところがあって。「Boys be an Vicious」は、そういう雰囲気が感じられるサウンドにしたいなと思ったかな。「Round & Round」も90年代ヴィジュアル系へのオマージュなんですけど、それもわかりやすく出てると思います。「空っぽの未来」は、ちょっとTHE YELLOW MONKEYも思い浮かべながら作っていった部分もあって。HEESEY(廣瀬洋一)さんが使ってるギブソンのサンダーバードというベースを買ってみたりとか。

――その曲のためにお買いになったんですか?

YUKKE:きっかけはこの曲なんですけど、ほかの曲でも使っていったり、今後も使っていくのかなと思ってます。

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