『100万回 言えばよかった』が教えてくれた大切なこと 作品の魅力が倍増の特典映像を観て
冬の路地を歩く。肌寒くて、思わず手と手をこすりあわせる。悠依(井上真央)は、かつて恋人の直木(佐藤健)が同じシチュエーションで手を繋いで温めてくれたことを思い出しながら、自身のコートのポケットに、行き場を失ったその手をしまう。傍で見ている幽霊の直木は、その手に触れることができないから、せめて、不器用な口笛で彼女に寄り添うのだった。『おかえりモネ』(NHK総合)、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)の安達奈緒子が脚本を手掛けたドラマ『100万回 言えばよかった』(TBS系)は、何より「触れる」ことを描いたドラマだ。
2023年1月期に放送された金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』のBlu-ray&DVD-BOXが、7月28日に発売された。特典映像には、キャストインタビュー、各キャストのクランクアップ映像、NG集や未公開シーン集、生配信イベントや制作発表の模様を収録したもの、視聴者から募った「胸キュンシーン」ベスト3の発表のほか、フードコーディネーターのはらゆうこによる「直木特製ハンバーグ」のレシピ解説など盛りだくさんで、ドラマ『100万回 言えばよかった』及び、井上真央、佐藤健、松山ケンイチの魅力を堪能できるラインナップになっている。
興味深いのは、メイキング映像やNG集、それぞれのインタビューなどから窺い知ることができる、本作ならではの特殊な制約の多さである。例えば、幽霊の直木に対し、見えている譲(松山ケンイチ)、見えない悠依という違いにより、それぞれの対峙の仕方に変化が生じること。また、特典映像として収録されている、『王様のブランチ』(TBS系)でのインタビュー映像において、佐藤健が「幽霊役で大変だったこと」として「透けちゃうので人に触れられない」ことと、「人もそうだし、ものも掴んだりできない」ことだと明かしているように、幽霊である直木の手がとっさにそこにある何かを掴んだり、直木のコートに偶然悠依や譲の手が触れたりするとやり直さなければならないという特殊な撮影風景を、NG集などで垣間見ることができる。つまり、演出部分において、本作は徹底して、「触れない」という制約を通して、幽霊と人間との間に「見えない壁」を描き続けてきた。
安達奈緒子脚本もまた、登場人物たちの「触る/触れない」の葛藤をつぶさに描き続ける。例えば、第2話において悠依は「感じられるなら大丈夫なんてウソ。顔も見えない、声も聞こえない、触れない、触ってもらえない。そんなんじゃちゃんといるってことになんない」と幽霊の直木に呼びかける。その後第4話において、直木の遺体と対面した悠依は、「もう一度直木に触りたいって、ずっとずっと思ってた」ために直木の体に触れるも、その体の冷たさに彼の「死」を実感する。一方の直木は時に悠依の涙を拭おう、抱きしめよう、命の危険から守ろうと彼女に懸命に触れようとするが、幽霊であるために、それは叶わない。そんな現在の2人とは対照的に描かれる、直木が生きていた頃、言葉を必要としないほどに、触れ合い、見つめ合うだけで、ちゃんと通じ合っていた2人の日々の記憶。
「触れない」ことを通して濃密に描かれ続けた「触れる」物語は、最終回に思わぬ反転を見せる。直木の「思いのこし」が消え、成仏する前の、神様が与えてくれた「最後の時間」、ちゃんと触れ合い、尚且つ「大切な人に、今、大切だって言える」ようになった直木と悠依の姿が描かれるのだ。それは、演出部分、俳優陣の演技含めて、まるでドラマ自体が全ての制約から解き放たれた喜びに満ちているかのような回だった。