『罠の戦争』は「戦争シリーズ」の総決算? 『半沢直樹』から続く復讐ドラマの10年
草彅剛の6年ぶり連続ドラマ主演作となった『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)が反響を巻き起こしている。『銭の戦争』(2015年/カンテレ・フジテレビ系)、『嘘の戦争』(2017年/カンテレ・フジテレビ系)に続く「戦争シリーズ」の最新作であり、政界を舞台にした権謀術数と罠の仕掛け合いは、2010年代を席巻した復讐ドラマの総決算といえる内容だ。
復讐それ自体は古くて新しいテーマだ。『忠臣蔵』や『モンテ・クリスト伯』など洋の東西を問わず、悪人によって苦しめられた主人公が仇を討つ物語は、人という生き物の琴線に触れるのだろう。復讐ものに流行り廃りはあっても、なくなることはない。
復讐をテーマにしたドラマは2010年代に増加し、現在も増え続けている。『半沢直樹』(2013年、2020年/TBS系)や上記の「戦争シリーズ」を筆頭に、復讐を描いた作品は毎クールのように放送されており、この10年は復讐ドラマの10年と言っても過言ではない。伝統的に復讐を主題としてきた時代劇が退潮傾向にあることは、この事実をより際立たせる。プライム帯、深夜枠を問わず、現代劇の分野で復讐ものは看板メニューの地位を確立した。
2010年代以降の復讐ドラマには一つの傾向がある。復讐ものと聞いて思い浮かべるのは、肉親を殺された/生まれ故郷を追われた/地位・財産を奪われた主人公が、力を蓄え/姿を変え/実力者を味方につけて、宿敵のもとに舞い戻り、目的を果たすイメージだろう。そこにあるのは個人間の相克だ。時に集団間の抗争になることはあるが、私的な因縁に動機づけられている点は変わらない。
大ヒットした『半沢直樹』や「戦争シリーズ」もこの王道パターンを踏襲している。違うのは新たな要素を加えた点だ。話題になった作品がそれまでの復讐ものと違うのは、その時代特有の同時代性を備えていることである。平成不況の2000年代は現在よりも相対的に豊かさを実感できたが、リーマンショックと東日本大震災を経た2010年代は「勝ち組・負け組」という言葉に象徴されるように格差が鮮明になった。富めるものが栄え、貧しいものが没落する構造が加速した。
こうした時代背景を主人公たちも背負っている。堺雅人演じる『半沢直樹』の主人公は、町工場を経営する父親が銀行の貸しはがしによって自殺。韓国ドラマをリメイクした『銭の戦争』も近しい設定を持つ。『嘘の戦争』の主人公・浩一(草彅剛)は少年時代に養護施設に引き取られた。セーフティネットが機能しなくなった社会で、彼らには日陰の人生コースを歩んできた共通点がある。