草彅剛、静と動の見事な切り替え “誠実さ”から生まれる『罠の戦争』鷲津亨の説得力

草彅剛の“誠実さ”から生まれる『罠の戦争』

 草彅剛の俳優としての魅力を考えた時、いちばんに浮かんだのが“誠実であること”だ。彼が発する言葉には、嘘がない。他人の気持ちを第一に考え、その人が欲しい言葉を優しく紡いでいる印象がある。そのため、『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)で、政治家に忠誠を尽くす議員秘書を演じることが発表された時は、ハマり役だと感じた。

 草彅が演じる鷲津亨は、路頭に迷っていた時に手を差し伸べてくれた犬飼(本田博太郎)に恩義を感じている。そのため、犬飼がどれだけ世論の反発を招いても、命懸けで味方になってきた。正直、ちょっぴり怖くなってしまうほどの服従っぷり。それでも、“こういう人もいるかもしれない”と思わせるのは、演じている草彅が誠実な人間だからだろう。

 第1話のなかで、最も彼の誠実さが生かされているように感じたのが、息子の泰生(白鳥晴都)が重傷で病院に搬送された場面。いつものように、「いってらっしゃい」と送り出した息子が、まったくの別人となって帰ってくる。可南子(井川遥)が、「そばにいてくれない? せめて、今夜だけ……」と夫にすがりたくなる気持ちも、痛いほど分かる。それでも鷲津は、「そうしたいけど、山ほど仕事が。事務所に戻らないと」と言い、病院から離れようとした。

 この時点で、本来なら「家族より仕事?」とヘイトが集まる可能性もあったと思う。だが、そうならなかったのは、鷲津の佇まいに誠実さを感じたから。仕事を優先して、家庭を顧みないダメ夫ではない。息子を想い、家族を大事にしているからこそ、どんなに苦しい業務でも頑張って乗り越えてきたのだ、と。わずかなシーンではあったが、一つひとつの表情から鷲津のバックグラウンドを想像してしまい、胸が苦しくなった。作中で具体的には描かれていなかったものの、おそらく鷲津は夜通し妻のそばにいてあげたのだろう。

 ただ、たとえ家族の危機であっても、“先生”(=犬飼)の仕事をおろそかにするわけにはいかない。周囲に心配をかけないように、必死で目の前の仕事をこなす鷲津。これから“理不尽な欲求”を突きつけられることも知らずに、ただただ誠実に。そんな彼を、いとも簡単に裏切った犬飼が憎い。「泰生が突き落とされた事件を事故として処理しろ」という欲求も、誠実に尽くしてきた鷲津なら受け入れるはずだと思ったのだろう。でも、私たちは分かっている。鷲津が犬飼に対して誠実だったのは、彼に対して恩義があったから。息子を売ってまで、忠誠するわけがないと。ただ、鷲津がこれまで忠誠を誓い、犬飼を支えてきた姿を見てきたからこそ、この裏切りはあまりにも苦しい。

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