どこにでもある飲食店でこそドラマが起こる 『初恋の悪魔』でも一貫する坂元裕二の哲学

『初恋の悪魔』でも一貫する坂元裕二の哲学

 第3話で物語が一気に加速した『初恋の悪魔』(日本テレビ系)だが、本作の物語は3つのパートに分かれていると言えるだろう。

 まずは刑事ドラマの華といえる事件パート。捜査一課の刑事たちがロクに捜査しない事件を、会計課職員の小鳥琉夏(柄本佑)、総務課職員の馬淵悠日(仲野太賀)、推理マニアで凶悪犯罪に目がない、現在停職処分中の刑事課の刑事・鹿浜鈴之介(林遣都)、生活安全課の刑事・摘木星砂(松岡茉優)が、独自に考察するというのが第1話~第2話の流れだ。捜査権を持たない4人が事件の真相を導き出すが、彼らの功績は表には出ないという影のヒーロー性が本作の魅力だ。

 一方、事件と同時進行で描かれるのが、馬淵たち4人の青春群像劇。脚本の坂元裕二は人間関係の機微を描くことを得意とする作家だが、馬淵と星砂と鹿浜の間に三角関係が生まれる第3話を観て、いよいよ坂元ドラマの本領発揮だと感じた。

 そして全体を貫く物語が、馬淵悠日の兄で刑事だった朝陽(毎熊克哉)が殉職した事件。朝陽の友人だった境川警察署・署長の雪松鳴人(伊藤英明)は「朝陽は境川警察署の人間に殺されたのではないか?」と疑っている。馬淵は雪松から兄の事件を調べるように強要されており、鹿浜の元に最初に向かったのも、雪松が「怪しい」と言ったからだ。

 第2話では、星砂が朝陽の死に関わっているのではないかと匂わされたのだが、この第3話では彼女が大きくフィーチャーされる。

 今回描かれたのは、星砂が万引きを監視するスーパーで起きた連続万引き事件。犯行現場を目撃した星砂は万引きした客を捕まえる。しかし、客のバッグの中に商品は入っていない。監視カメラの映像を確認すると、荷物がカメラの前に置かれて死角となっており、犯行の瞬間は映っていなかった。同じことが5回も続いたため、星砂は自分の認識がおかしいのではないかと疑うようになっていく。

 星砂が解離性同一性障害(多重人格)で「“ヘビ女”という別の人格を宿しているのではないか?」という疑惑が、劇中では繰り返し描かれている。この第3話でも、星砂の意識が飛び、気がつくと時間が経っていたという描写が挟み込まれる。そのため、連続万引き事件なのか、星砂の別人格が起こした認識の齟齬なのかがわからないまま、物語は進んでいく。

 第5回自宅捜査会議で4人は、この事件は誰かが仕組んだもので、連続万引き事件の裏で別の犯罪が動いているのではないかと考察する。そして監視カメラで犯行現場を確認する際に録画が止まり、入力が出力に切り替わる瞬間を狙った犯行だと突き止める。

 犯人は、スーパーに30年間務めているパート主任の女性で「老後の資金」が欲しくて社長室にある金庫の中にある売上を横領していたことが判明する。

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