『初恋の悪魔』馬淵悠日と『最高の離婚』濱崎光生のリンク 坂元裕二が書く男の抱える屈折

『初恋の悪魔』坂元裕二が書く男の抱える屈折

 土10(日本テレビ系)で放送されている坂元裕二脚本のドラマ『初恋の悪魔』は、事件の捜査権を持たない馬淵悠日(仲野太賀)たち4人の警察関係者が、事件について考察するドラマだ。

 第2話で考察されたのは、兄弟の紙切り芸人「ゆきおひでお」の兄・安生夕紀夫(内藤トモヤ)が団地で殺された刺殺事件。団地には大勢の人々がいたが、夕紀夫がハサミで刺された後、「人殺し~!」「殺される!」と叫んだ声を聞いた団地の住人が家の中に避難したため「犯人の目撃者がいない」という、密室状態が生まれていた。遺体を発見したのは兄の部屋を訪問しようとしていた弟の日出夫(六角精児)。兄に多額の借金があったことから、日出夫も事件の容疑者となっていたが、彼にはアリバイがあった。

 刑事ドラマとして『初恋の悪魔』が特異なのは、馬淵たち4人が、事件の容疑者とも被害者とも交流を持たないことだ。彼らの考察はすべて二次的な情報や専門家の分析を元にしたもので、関係者から直接、話を聞く場面は登場しない。他の刑事ドラマでこんな捜査をする場面が出てきたら、「お前は現場をわかってない」「人の心をわかってない」とベテラン刑事から説教されていただろうが、そのような刑事が現時点では登場していないことも、本作の大きな特徴だ。被害者とも加害者とも関わらないからこそ真実に辿りつけるというのが、このドラマが示そうとしている正義のあり方で、結果的に弟の日出夫が犯人だったことを4人は突き止める。

 構造だけ抜き出すと、なんて人間味のないドライな刑事ドラマなのかと思うのだが、観ている時の印象は真逆で、むしろとても人間味のある作品だと感じる。何より今回は「不出来な弟」という犯人と自分の境遇を重ねて同情する馬淵の姿が際立っていた。おそらく馬淵の心情と重ねるために、この事件を描いたのだろう。

 警察行政職員として働く馬淵は、自分の感情を押し殺して愛想笑いを浮かべる凡庸な男だ。しかし職場では思うような仕事ができず、恋人からは理不尽な仕打ちを受け、親からは馬鹿にされる日々を送っている馬淵の腹の底には、鬱屈が溜まっており、いつ爆発してもおかしくない危うさを抱えていた。

 だからこそ「ゆきおひでお」の弟に動機があったとしても、「うらやましいとか、ずるいとか、それくらいの動機、誰だって持ってます」「人を殺す動機があるくらい人間は普通です」「だからって、誰しもが罪を犯すわけじゃないでしょ」と言うのだが、優秀な刑事だった兄に対して鬱屈した気持ちを抱えている自分と重ねていたのだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる