どこにでもある飲食店でこそドラマが起こる 『初恋の悪魔』でも一貫する坂元裕二の哲学
今回は、小鳥が考察する際に「社会の闇」を持ち出し、鹿浜が何でも社会のせいにする小鳥を馬鹿にするシーンがなかったのだが、「老後の資金が欲しかった」という犯行理由は、社会の問題だと感じた。
4人の考察は、小鳥がなんでも社会のせいにし、鹿浜がなんでも猟奇殺人事件につなげようとする両極の意見があり、その間に馬淵の普通の意見と星砂の人間の本質を付いた意見があるという構造なのだが、毎回面白いのは、それぞれの意見が少しだけ正解だということ。4人のやりとりは議論というよりはバトンリレーのようなもので、それぞれが見つけた小さな正解を繋げていくことで真相にたどり着くという流れとなっている。
また、第2話の事件が馬淵の「兄に対する愛憎」とシンクロしていたように、今回は星砂の人格が入れ替わることで「時間が飛ぶ」問題と、監視カメラを再生に切り替えた瞬間に録画時間が「10分弱、飛ぶ」という状況が重ねられている。
やはり本作の事件は、各登場人物の内面を映す鏡なのだ。
事件解決後、鹿浜に拒絶された馬淵と星砂は居酒屋へと向かう。変わり者で普通の人にコンプレックスを抱いている鹿浜に対して、馬淵は鹿浜のような変わり者にこそ自分は憧れていて、逆に普通であることがコンプレックスなのだと星砂に告白する。そんな馬淵に対して星砂は「好きだよ」と返し、青春ドラマのような甘酸っぱいやりとりが繰り広げられるのだが、その後、星砂が馬淵の兄と会ったことがあり、自分の中に別の人格がいるかもしれないと告白すると、劇中の空気が変わっていく。
そして、星砂の秘密が一気に明かされ、彼女が苦手だったトマトを口にした後、ヘビ女らしき人格が登場するという怒涛の展開を見せる。その舞台が“居酒屋”だというのが、実に坂元裕二らしい。
居酒屋やファミリーレストランは坂元裕二作品では定番の場所で、客の雑音がうるさい飲食店で、恋人や友達が深刻な話をおこなう場面を、彼は繰り返し書いてきた。
「どこにでもある飲食店でこそドラマが起こる」というのが坂元裕二作品の哲学で、刑事ドラマを書いていても、そのスタイルは一貫している。
■放送情報
『初恋の悪魔』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送
出演:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣、味方良介、安田顕、田中裕子、伊藤英明、毎熊克哉
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生ほか
プロデューサー:次屋尚ほか
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/
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