置鮎龍太郎、荒唐無稽な孔明を成立させた巧みな声色 『パリピ孔明』は夢を応援する作品に

置鮎龍太郎、孔明としての巧みな声色

漢詩と現代語を違和感なく話す声

 また、本作の中には、思わずクスッと笑ってしまう場面がいくつか出てくる。そもそも「渋谷×孔明」という設定が既に面白いのだが、作中にもジワジワくる場面が何箇所も登場する。

 第1話で初めて渋谷に降り立ったとき、「ここが地獄なのですね!」と、自分が置かれている状況に焦らず、受け入れた様子はコミカルだった。街中の騒音を「音が揚子江の濁流のごとく流れ込んできます」と表現したり、クラブでお酒を作る際に「茶をたてるより簡単」と得意気に話したり。絶妙なワードチョイスで、さらっと話している様子が楽しい。

 会話の中で戦術の解説をしたり、三国時代にいた頃の思い出を振り返っていると思いきや、「激アツ」「バイブス」など現代の若者言葉を同じテンションで話している様子もひょうきんだった。一番衝撃的だったのは、第6話でKABEとMCバトルをする際に披露した「お経ラップ」だ。

 置鮎が「孔明らしさを噛み砕きながら体の中に染み込ませた」というお経ラップは、ラップの早いテンポ感を意識しつつも、全体的にのっぺりとした印象を受ける曲だ。

 何度聴いてもイマイチ掴みにくい曲を、孔明らしさを出しつつ歌った置鮎の技術はすごい。ラップバトルの途中で場面が切り替わり、漢詩が登場するというカオス具合だが、置鮎の落ち着いた声には自然と耳を傾けてしまう。ここでも、孔明の謙虚な姿勢と穏やかな語り口調が功を奏していた。

やさしく見守り、鼓舞する声

 最後に、孔明の声が持つ相手を「鼓舞する力」について紹介したい。孔明はあくまで軍師であり、英子とKABEが最善の状態でパフォーマンスできるようサポートするが、本番では後ろでそっと見守っている。

 「ご武運を」「あなたも勝つ」「英子さんが歌えば、全て引っくり返る」と、自信たっぷりな声で英子やKABEを応援してきた。どんなに緊張していても、自分以上に自分を信じてくれている孔明のような存在がいると、自然とできる気がしてくる。

 孔明が声をかけると、英子もKABEも顔付きが変わるのだった。そして実際、ステージ上では最高なパフォーマンスを見せている。孔明が2人を、そして2人が孔明を信じたからこそ言葉が彼女たちの原動力となり得たのだ。

 置鮎を取材した際に感じたのは、置鮎が「孔明らしさ」をかなり意識していた点だ。「お経ラップ」の歌い方を始め、アフレコの際も「軍師である孔明」の立ち位置を考えて演じていた。そのため、置鮎が演じた孔明には「誠実さ」「謙虚さ」「力強さ」「優しさ」が見事に表れていたのである。

 『パリピ孔明』は、夢に向かって走る若者を応援するアニメであった。20代半ばである筆者も、奮闘する英子やKABEの悔しさ、もどかしさに共感し、思わず泣いたことがある。だが、そのたびに孔明があたたかい言葉をかけてくれるので、何度も救われた。

 夢を追いかける若者はもちろん、かつて夢に向かって奔走した大人たちにも響くアニメだろう。これから壁にぶつかった時、もう一度観返したい。そして孔明や英子、KABEたちのパワー溢れる声に、元気をもらいたいと思う。

参照

※ https://realsound.jp/movie/2022/05/post-1022127.html

■放送情報
『パリピ孔明』
TOKYO MX、MBS、BS日テレにて放送中
キャスト:月見英子(CV.本渡楓/歌唱.96猫)、諸葛孔明(CV.置鮎龍太郎)、KABE太人(CV.千葉翔也)、久遠七海(CV.山村響)、オーナー小林(CV.福島潤)
原作:四葉夕卜・小川亮(講談社『ヤングマガジン』連載)
監督:本間修
シリーズ構成:米内山陽子
キャラクターデザイン:関口可奈味
プロップ設定:宮岡真弓、牧野博美
美術監督:東潤一
美術設定:藤井祐太
色彩設計:江口亜紗美
3D監督:市川元成
撮影監督:富田喜允
編集:高橋歩
特殊効果:村上正博
音響監督:飯田里樹
音楽:彦田元気(Hifumi,inc.)
音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:「パリピ孔明」製作委員会
(c)四葉夕卜・小川亮・講談社/「パリピ孔明」製作委員会
公式サイト:https:// paripikoumei-anime.com
公式Twitter:@paripikoumei_pr

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