置鮎龍太郎、荒唐無稽な孔明を成立させた巧みな声色 『パリピ孔明』は夢を応援する作品に
「私があなたの軍師になります」
現代の渋谷で、力強いこの言葉を放ったのは他でもない。三国時代の天才軍師・諸葛亮孔明である。
TOKYO MXほかにて放送中のアニメ『パリピ孔明』。本作は、西暦234年の五丈原から現代の渋谷に転生してきた孔明が、歌手を志す若者・月見英子と出会い、彼女の夢を叶えるために軍師として導いていく物語だ。
パリピたちが集う「渋谷」に「孔明」という、一見すると違和感のある組み合わせだが、本作を観ていると上手くマッチしているので面白い。むしろ、厳しい現実が立ちはだかるこの時代にこそ「孔明がいてくれたらな」と思わせるほどピッタリと現代にはまっていた。その大きな理由は、孔明役を演じた置鮎龍太郎の存在が大きいだろう。
偽りのない、誠実な声
「英子さんのすばらしい歌を聴けたので、疲れなど吹き飛びました」
「あなたの歌に救われた人間が目の前にいるのです」
「あまりのすばらしさに、意識が時空を越えたようです」
孔明はいつも、観ているこちらが照れてしまうくらいまっすぐな気持ちを、英子にしっかりと伝えている。相手に何か見返りを求めているわけではなく、感じたことをそのまま言葉に表しているからこそしっかりと響く。照れがなく、堂々とした置鮎の話し方が心地いい。
孔明が素直な気持ちを相手に伝える理由として、「言いたいことも言えず、戦場で散っていった命をたくさん見てきた」「率直な意見、素直な感想は生きているうちに語ってこそ」と述べている。恥ずかしくて咄嗟に誤魔化したり、曖昧なニュアンスで相手に伝えたりしてしまう人が多い世の中だからこそ、はっとさせられる言葉だ。
そんな孔明に言われたからこそ、英子は「私があなたの軍師になります」「いかなることであろうと、どのような困難な道であろうと、この孔明、死力を尽くしてお助けします」という言葉を信じて、一緒に夢を目指したのだろう。孔明の声は、人の心を動かすほど誠実で、まっすぐなのだ。
軍師としての心強い声
孔明は現代でも軍師としての手腕を見せる。一度足を踏み入れたら二度と元の場所に戻れなくなる陣「石兵八陣」や、無きものを有るように見せる「無中生有の計」など、三国時代の秘策を次々と披露していった。
ライバルが孔明の策に怒り、呼び出した際にも「ご心配なく、これでも戦場には慣れていますので心得くらいならございます」と余裕な表情と声色でオーナーに伝えた。ライバルに攻め込まれても、表情ひとつ変えずに堂々とした態度で立ち向かう孔明は、心強い。
孔明は、起こり得る全ての可能性を想像し、常に数パターンの策を用意していた。「そちらの計略は使わずに済みました」と笑いながらオーナーに話していた様子は、戦の時代を生きた軍師としての片鱗も見え、恐ろしさもある。
次々と秘策を練り、英子の知名度を上げ、より大きな舞台へと導く孔明。だが、孔明の策が成功する前提には英子の実力が不可欠という点に、孔明の英子に対する信頼が見えた。そもそも、英子の歌声に惹かれ、この主の力は信じられると思ったから軍師に立候補したのだ。
そして英子を導きつつも、肝心な決定権は主である英子に委ねているのも、軍師ならではの在り方だったと思う。10万イイネを稼ぎ、最大級の音楽フェス「サマーソニア」に出場するか、福岡で開催される「ライブフェス」に参加するか、どちらか選択しなければならない時、英子は咄嗟に孔明に意見を求めた。だが孔明は、明確な答えは言わず「わたくしは、あなたの夢を全力でお手伝いさせていただくまで」「それがどんなに困難な道であろうと」とだけ伝えた。その言葉が、英子が自分で決断する後押しとなったのだった。
「導きつつも、決定権は主に委ねる」
この軍師としての姿勢は、堂々としつつも命令口調にはならない、置鮎の謙虚な声色にも表れている。以前、置鮎に行った取材で、孔明は「主人に仕える軍師」であるため、アフレコ時は「先生」にならないように気をつけたと語っていたのを思い出した。