星野源、役者としての印象に変化? 『17才の帝国』の冷静な演技で見せた新たな説得力
6月4日に最終回を迎える、NHK土曜ドラマ『17才の帝国』に出演している星野源の好演が話題を呼んでいる。星野は、シンガーソングライターを軸に、ラジオDJや『おげんさんといっしょ』(NHK総合)などのバラエティ、文筆業と多岐にわたり活躍し、俳優としては『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系/以下『逃げ恥』)でブレイクした。
役者としては2003年から活躍し、ドラマ『WATER BOYS』(フジテレビ系)や『タイガー&ドラゴン』(TBS系)、『ゲゲゲの女房』(NHK系)などの人気作にも出演していた星野。知名度が上がった後から気づく人も多いのではないだろうか。シンガーソングライターが主演俳優として活躍するのは珍しいことではなく、武田鉄矢や長渕剛、福山雅治が良い例だ。星野世代で言えば、銀杏BOYZの峯田和伸なども、個性派俳優として名演技を見せている。そんな中で、星野は俳優として自己主張やがっつきがなく、かといってスカしているわけでもない。平静、平熱という、一見無機質な印象だ。ただ、彼が創造する音楽と一緒で、低温火傷のような、冷静に見えて実は情熱的な面が感じ取れる。若い頃は、そういった面が、人見知りや女性に奥手というキャラクターを演じる上で生かされてきた。しかし年齢を重ねていくうちに、世間を冷静に見て、心に何かを抱え感情を閉ざしているキャラに繋がり、今は若い人や同僚を一歩下がった位置から見守る立場の役を演じる印象に変わっていった。かっこよく言えばクールだが、TBSラジオ『コサキンDEワァオ!』の“コサキンリスナー”だった星野だけに、“むっつりな役者”という表現が相応しいかもしれない。
俳優としてのルーツは、中学1年の時に演劇に目覚めたことから始まる。高校生の時に松尾スズキ主宰の劇団「大人計画」の舞台『マシーン日記』(松尾スズキ作・演出)を観て衝撃を受け、劇団のワークショップに参加し、2003年に舞台『ニンゲン御破産』に参加。これをきっかけに「大人計画」に所属した。俳優として今の低温スタイルが築かれたのが、ドラマ初主演となった2007年の『去年ルノアールで』(テレビ東京系)。星野演じる「私」が、毎日喫茶ルノアールへ足を運び、とりとめのない妄想をひたすら繰り広げる、大根仁演出によるシチュエーションコントのようなショートドラマだ。表面的にはすまし顔でセリフがないものの、内側では様々な妄想と心の声を聞かせてくる。周りの声に敏感に反応し、表情が変わる演技の上手さに気づかされた。「大人計画」で培われた演技力と童貞キャラで、この頃もうすでに“俳優・星野源”は完成されていた。同作はその本来の魅力を、大根が表舞台に引っ張りあげた作品と言える。
星野が役者として認められたのが、2013年の映画『箱入り息子の恋』と『地獄でなぜ悪い』。『箱入り息子の恋』では、35歳恋愛経験なしの市役所の公務員役で、お見合いをした全盲の女性に親の反対を押し切って恋をする話。冴えない男が純愛を通していくぎこちない行動や感情を、絶妙な間合いと静かなトーンで見せるリアルさ。そうした男が愛情で頭がいっぱいになってしまった時の発狂ぶりの怖さと気持ち悪さを、後半一気に見せていく。その必死さが滑稽であり、最後は愛おしく思わせてしまう星野の可愛さが魅力の作品だ。一方の『地獄でなぜ悪い』で演じたのは、血まみれになって絶叫するなど、感情むき出しのフルスロットルな役。何も関係ないのに巻き込まれる男の面白さを熱演した。しかし感情を爆発させる演技とは逆に、エキセントリックな状況で平常心を保ち、自然に見せる演技も披露。これにより、この年は数々の俳優賞を受賞した。そして2016年の『逃げ恥』で演じた恋愛経験ゼロの独身男性、津崎平匡役で大ブレイク。既に『箱入り息子の恋』のような女性に奥手な独身男性役で高く評価されているだけに、この役がハマったのも狙い通りだろう。特にハグを練習していく中で、初めてスキンシップをとる緊張と照れが見事に表現され、素ではないかと思うほどリアルな演技が見ていて可愛らしい。一方、エンディングでポップに歌うギャップに視聴者は心惹かれた。