『ホットスポット』がほぐした現代人の心 “ホッとするスポット”を守ることが生きる理由に

バカリズム脚本の地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー『ホットスポット』(日本テレビ系)が最後まで面白かった。「SF史上かつてない小スペクタクルで贈る」と銘打つだけあって、エイリアンがいるというのに起こる事件は拍子抜けするほど小規模で、視聴者にとっても身近なものばかり。
体育館の天井に挟まったバレーボールを取る、スマホの画面保護シールを貼る……なんていうのは、ちょっと運動神経が良かったり、少しだけ手先が器用だったりする人なら、特殊能力を持つ宇宙人ではなくとも頼まれるもの。交通事故の回避なんていう宇宙人的能力がなければ乗り切れなかったピンチはあるものの、それでも世界征服を目論む巨悪と戦ったり、宇宙からの侵略を阻止したりなんていう大きな事件は起きないし、仮に起きたとしても「無理だよ……」と正面から戦うことはなさそうだ。
このドラマの面白さは、特別な存在として扱われるはずの宇宙人が全く特別扱いされないシュールさ。そして、気づけば私たちが「普通」と思って疑わない生活に、現れたイレギュラーな存在に対する境界線が曖昧になっていくところにあったように思う。

10円玉を指先でグニャリと曲げて見せ「実は俺、宇宙人なのね。だからちょっと、内緒にしてもらいたいんだよね」と言いだす中年男性・高橋(角田晃広)。そう同僚からカミングアウトされた清美(市川実日子)は、警戒心と猜疑心を拭えない表情を浮かべながらも当たり障りのないリアクションを取る。
そんな清美の姿に、きっと多くの人が似たりよったりなリアクションをするのではないだろうかと思った。大きな声で驚いたり、過敏に排除しようとしたり、そんなドラマチックな反応をする人は現実には多くない。実際世の中いろんな人がいるし、「多様性を認め合おう」なんて言われてもう随分経つ。自分を宇宙人だと主張する人がいたとしても、そっと見守るような空気感も漂う。

とはいえ、どう見ても宇宙人には思えないおじさんから「宇宙人なのね」と言われた事実は、なかなかひとりでは受け止めきれないという清美の心境も頷ける。結果「ここだけの話」として、幼なじみたちにその秘密が漏らされていくのだが、そんなところまで含めて「わかるわかる」という身の丈感がこのドラマのうまいところだ。
2人、3人……と秘密を共有していくうちに、徐々にその「秘密を知る人」「知らない人」の境界線も曖昧になっていく。そのうち、みんなが知っていることになると、徐々に緊張感が薄れていくのだ。きっと秘密にも「鮮度」があるのだろう。最初こそ物珍しいと思っていたものも、それが当たり前にある事実になると、いつしか秘密は常識になる。

高橋が長年孤独に耐えながら守ってきた「自分が宇宙人である」という秘密は、もはや清美たちの口の軽さによって「え、言ってなかったっけ?」くらいのものになっていくのが、切なくもおかしい。普通の人たちに紛れて普通の生活を送るために隠していたのに、バレてからのほうがそんな普通の人たちに溶け込めるようになった。そんな皮肉な結果に、孤独だったことと宇宙人の秘密は関係なかったのでは、とさえ思えてくる。頭脳系の能力を使ったから副作用で髪が薄くなったのか、もともとそうなる運命の頭皮だったのかという話とともに。