『青天を衝け』草なぎ剛、慶喜として最後に見せた晴れやかな笑顔 吉沢亮の名演説も
2021年2月からスタートした大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)も残り2回という、ゴール目前のところまできた。前回、実業界からの引退を宣言した栄一(吉沢亮)だったが、第40回「栄一、海を越えて」でも彼はそのスピードを落とすことなく日本のためにと走り続ける。
民間外交に力を注ぐ栄一は兼子(大島優子)らを連れて渡米。91日間で全米60都市を訪問するアメリカ大陸横断の旅に出る。視察団の団長として日米親善に努める栄一の目的は、日本人労働者を敵と見なす排日の差別根絶。旅の途中、伊藤博文(山崎育三郎)が暗殺されたという訃報に衝撃を受けながらも、栄一はアメリカの経済人に向けての演説を続けていく。
用意していたスピーチ用の手紙を置き、栄一は伊藤の死、そしてこれまで多くの友を亡くしてきたことを伝える。栄一の脳裏に浮かぶのは、円四郎(堤真一)、長七郎(満島真之介)、平九郎(岡田健史)、西郷(博多華丸)、五代(ディーン・フジオカ)、弥太郎(中村芝翫)といった人物たち。「相手をきちんと知ろうとする心があれば無益な憎しみあいや悲劇は免れるんだ」──そう言って、栄一は排日運動が盛んなアメリカ西海岸を名指しする。「己の欲せざるところ、人に施すなかれ」という『忠恕』の教え、つまりは真心と思いやりは日本に広く知れ渡っていた。互いが心を開いて手を結び、皆にとって幸せな世を作る。それを世界の信条にしたいという栄一の思いは、アメリカの人々の心を打つ。タフト大統領(ニール・ギャリソン)に言われた「ピースフルウォー(平和の戦争)」という言葉をあえて引用しながら、栄一が叫んだ「ノーウォー」。徐々に熱を帯びていく息を呑むような吉沢亮の芝居はもちろんのことだが、「ノーウォー」を頭上から捉えたカメラアングルも筆者としてはシビれるポイントだった。
この演説シーンと同じく、実業団が用意した通称“100万ドル列車”に乗って栄一らが都市を移動していく場面は、パリ編で活かされたグリーンバックでの撮影の手法が取り入れられている。杖を使った吉沢の老いの芝居にも引き込まれながら、せっかく息のあってきた大島優子とのやり取りももうすぐ終わりなのかと一抹の寂しさを覚えた。
15分拡大版の第40回は前半の約30分をたっぷりアメリカ編として、後半の約30分をさらなる友との別れとして描かれている。栄一の幼なじみとしてともに育ち、生涯の相棒と呼ばれた喜作(高良健吾)はこの第40回でその生涯を閉じる。最期の舞台は血洗島。一時は道を違えたこともあったが、こうして大正という時代まで生き長らえることができた。それだけでいい。美しい夕陽のオレンジに照らされた2人が肩を組んで笑いあっている姿に、そんなシンプルなメッセージを感じた。血洗島獅子舞のシーンは、第2回をフラッシュバックさせる見事な演出。かつての幼少期から青年期へと一気にタイムスリップしたのも血洗島獅子舞だったが、2人が揃えばいつだってあの頃に戻るという栄一と喜作の変わらない関係性を表してもいる。
そして、慶喜(草なぎ剛)もまた自身の伝記『徳川慶喜公伝』の完成を見届け、77歳の天寿を全うする。鳥羽・伏見の戦いで敵前逃亡を選び、その責任から「いつ死ぬべきだったのか」を常に自身に問いてきた慶喜。しかし、今思うのは「生きていてよかった」ということ。慶喜は「話ができてよかった。楽しかったな」と栄一に優しく語りかける。吉沢はインタビューの中で「この作品のテーマを慶喜が語ってるシーン」と話していたが(参照:吉沢亮、草なぎ剛から受け取った多くの刺激 『青天を衝け』栄一として走り抜けた時間)、第40回で強く描かれているのは「生きる」という至極単純で、悟りの境地に達するほどに難儀なメッセージ。ただ、「快なり!」と父・斉昭(竹中直人)のセリフを連呼する慶喜の晴れやかな笑顔を見ると、その説得力は一層増す。