『青天を衝け』吉沢亮×草なぎ剛は“実在した人物”のよう 制作統括が芝居の変化を語る
約1年にわたり放送されてきたNHK大河ドラマ『青天を衝け』が、12月26日に最終回を迎える。本作の制作統括を務めた菓子浩に、主演を務めた吉沢亮、もうひとりの主役と言ってもいい徳川慶喜役の草なぎ剛の芝居、そして最終回までの見どころについてじっくりと話を聞いた。(編集部)
吉沢亮あっての『青天を衝け』
ーー『青天を衝け』クランクアップを迎えて、現在はどのような心境ですか?
菓子浩(以下、菓子):『青天を衝け』は3年前の2018年頃から考えていました。今までは“朝ドラ”を担当することが多かったので、大河ドラマのセオリーのようなものも知らず、それに歴史が得意というわけではなかったので、まずはどの時代を舞台にするかから考え始めました。オリンピック後の2021年には、日本はこれから先の10年に思い巡らせる気分になっているのではと思い、時代の大きな転換点である幕末から明治に絞りました。渋沢栄一という人物は、百姓から次々と立場を変えていきます。渋沢を主人公にすることで、一元的でなく、様々な視点から多角的に時代を描けるんじゃないかと思ったことが決め手でした。そこから予想を大きく超えたことが起こり、コロナがあり、オリンピックが飛び、より閉塞感が漂う世の中になってしまったように思います。渋沢はその人生の中で何度も失敗しているんですが、必ず次のステージへと進んで行く。逆境に陥っても挫けずに必ず立ち上がるんですね。制作の過程では苦しい時期もありましたが、作り手でありながらこのドラマの登場人物たちの行動やセリフに励まされる不思議な体験をしながら、自然と前に進むことができました。
ーー最終章では栄一が亡くなる晩年までが描かれていきます。
菓子:スタートする時に大まかなプロットは脚本の大森(美香)さんと話していて、早い段階から栄一さんが亡くなるまでを描きましょうとなっていました。吉沢(亮)さんに最期まで演じてもらうかどうかは収録を進めながらも考えていました。20代の俳優さんですからどうしたって90代に見せるのは難しいところもあります。だけど、そういうことよりも同じ“吉沢亮”という俳優に渋沢栄一という人生を演じきってもらいたいという気持ちが段々と高まっていきました。そんな時、吉沢さんから最後までやりたいと言っていただいたこともあってお願いしました。年齢もそうですが、栄一の人生のステージもどんどん変わっていきますよね。百姓だったのが幕臣になったり、経済界へと転身したり。ひとつの役の中にいろんな渋沢栄一がいて、吉沢さんにはそれぞれの渋沢を魅力的に演じていただいたと思っています。力強いお芝居にも、繊細な演技にも惹きつける力があって、吉沢さんあっての『青天を衝け』だなと思いました。
ーー吉沢さんの90歳としての役作りはどのように進めていったのでしょうか?
菓子:どういう風にビジュアルを作っていくかは吉沢さんを交えて演出陣が話し合いを重ねました。今は特殊メイクで90歳をリアルに作ることもできますが、老けメイクの期間が長ければ長いほど、そこが気になってしまってドラマに感情移入しにくくなるんじゃないかと考えたんです。大切なのは見た目ではないんじゃないかというのが話し合って出た結論でした。もちろん、老けメイクもしますし、最晩年は特殊メイクもするんですが、見た目を年齢に合わせていくというより、物語の中の自然な流れを取ったということになります。吉沢さんの話し方についても、おじいちゃんだからゆっくり話すいうわけでなく、怒る時は栄一らしくバーっと激しく喋ります。それでも、若い頃と晩年の栄一を見比べると、明らかに歳を取っているのが分かるんですよ。お芝居の力だと思います。
ーー慶喜を演じる草なぎ剛さんの演技はどのように見られていましたか?
菓子:草なぎさんは天性の俳優ですよね。現場でも飄々とされているんですけど、本番になるとそこにいるのは慶喜にしか見えない。当然、僕も慶喜には会ったことがないんですけど、草なぎさんが演じる姿を見て「慶喜ってこういう人だったんだ」って実在した人物に初めてお会いしたような気がしました。
ーー第30回では廃藩置県が異例のリモート演出で表現され話題を呼びました。今後、あのような変わった演出はあったりしますか?
菓子:廃藩置県のリモート演出は、それぞれセットを建てて全国の大名たちを撮るわけにもいかない。そういった現実的な制約をむしろ逆手に取って面白くしていくという、演出の黒崎(博)さんのアイデアです。これから先、渋沢栄一はアメリカの実業団が用意した通称“100万ドル列車”に乗って全米を横断しながら平和を訴えていきます。そこでは、パリ編で活かされたグリーンバックでの撮影の手法を取り入れて“100万ドル列車”を走らせますので、楽しみにしていてください。