『青天を衝け』脚本・大森美香がタイトルに込めた想い 「この人生を駆け抜けてほしい」

『青天を衝け』脚本・大森美香インタビュー

 約1年にわたり放送されてきたNHK大河ドラマ『青天を衝け』が、12月26日に最終回を迎える。坂本龍馬をはじめとした維新の英雄が登場しないなど、大胆な省略と視点を持って描かれた本作。脚本の執筆を終えた大森美香に本作に込めた思い、キャストたちの芝居の印象など、じっくりと話を聞いた。(編集部)

“偉人伝”ではなく“人間ドラマ”に

ーー『青天を衝け』では第12回までが「血洗島・青春編」として描かれましたが、栄一(吉沢亮)の幼少期から青年期にかけてまでを重点的に描いた理由を教えてください。

大森美香(以下、大森):私は渋沢栄一さんの人生は、パッと聞くとなんだか分かりにくい人だと感じていました。もともとお百姓さんの出身で商いをしていたところから、なぜ尊王攘夷の志士になったのか、そこから一橋家の家臣になり、さらに幕臣になってパリへ行き、それが帰国後は敵方であった新政府に入って活躍することになり、そこからさらに実業家へ……どういったメンタルでそういう変遷になったのか、なかなか共感しづらいのではないかと。そこをちゃんと調べてみると、彼の根っこにはお父さん(市郎右衛門/小林薫)の厳しくも温かな眼差しだったり、お母さん(ゑい/和久井映見)の大きな愛情があって、子供の頃から実際に商売をし、いとこたちと論語や世界を学び、「今の日本をどうにかしたい」という強い思いが確かにあった。手段や立場は違ってもその想いは決して変わっていない。変遷の中にあるその一本の筋からきっちり描かないと、栄一さんという方の精神的な部分の魅力は見えてこないなと思ったんです。また、育った時代背景は慶喜(草なぎ剛)さんパートを並列で描くことで見えてくるようにしようと思いました。血洗島の風景や家族が魅力的だったので、その頃の栄一さんのお話ももっと書きたかったんですけどね(笑)。青春期も、壮年期も、本当はどれももっと(笑)。

ーーみんなから愛される栄一を描く上で、なにか意識した部分はありましたか?

大森:書き始める前は、連続テレビ小説『あさが来た』の脚本を書いた時の印象で、渋沢栄一さんは「銀行の神様」というイメージが強かったんです。でも見て頂きたいのは ただの“偉人伝”ではなく“人間ドラマ”。また史実を調べれば調べるほど、栄一さん自身、ただ偉人なだけではなく、とても人間らしい魅力にあふれたパワフルな方だと感じていきました。そんな栄一さんの物語を、「あら、こんなことして!」「あ、あぶない」「よし、行け」などと、視聴者の方にも一緒に育てていくように、応援したり心配しながら観ていただけたらと思いました。

ーーそんな栄一を演じる吉沢亮さんにはどのような思いを込めていましたか?

大森:『青天を衝け』というタイトルは、吉沢さんが演じて下さると決まってから、吉沢さんの演じられる栄一を期待して作ったものです。渋沢栄一さんと聞くと、新一万円札や後年のお写真に残っているような、静かに座っている壮年期の男性をイメージされることが多いかもしれませんが、吉沢さんの栄一には走っていてほしい。この人生を駆け抜けてほしいという気持ちがありました。

ーー栄一と言えば「ぐるぐるする」といったセリフが印象的です。さらに円四郎(堤真一)の「おかしれぇ」というセリフも受け継ぎましたが、それらの言葉はどのような発想から思いついたのでしょうか?

大森:キャラクター設定をしている際に、栄一さんは、ワクワクしたり興味のあることにはとても貪欲だというイメージがありました。でも“ワクワクする”といった意味の言葉をそのまま使うと違和感がある。栄一が自分の身体の中から擬音を生み出すとしたらどんな言葉になるかなと思った時に、思いついたのが「ぐるぐるする」だったんです。また恩人となる円四郎さんもその「ぐるぐる」に共感できる人にしたいと考え、江戸言葉で何か良いものがないか探していた時に見つけた言葉が「おかしれぇ」です。当時の“粋な人”が使っていた造語で、あまりお行儀のいい言葉ではないらしいのですが、妙にしっくりきたのと、のちに円四郎さんから栄一さんに引き継がれる精神の象徴として、「おかしれぇ」を使おうと考えました。

ーー大森さんがこれまでの放送の中でお気に入りのシーンはありますか?

大森:第1回からすべてお気に入りだらけで選べないのですが、まず第14回の栄一が円四郎の手引きで慶喜に初めて謁見するシーン。明治に入ってからの大隈重信さんや伊藤博文さんとの対話のシーンも大好きです。あと意外だったのが、第20回の栄一さんがピンチになったところを土方歳三(町田啓太)さんが救いに来るシーン。幕臣となった栄一が、謀反の嫌疑のかかった大沢源次郎を捕縛に行く場面で、当初はさらりとした押し問答で解決するイメージで書いていましたが、演出の村橋さんや皆さんから「殺陣を少しでもいいので入れたい」とご提案いただき、脚本にそれを反映させました。そしたら出来上がった映像を見たら少しどころかとても立派な殺陣シーンになっていて……(笑)。思っていたのとは違いましたが、とても見応えがありました。栄一さんと土方さんの表情が魅力的で、短い時間の中でお互いに自分を見直し、友情が芽生えるすごく素敵な場面にしていただけたと思いました。

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