井之脇海は音楽に愛される役がよく似合う 『ミュジコフィリア』で滲み出る誠実さ

井之脇海は音楽に愛される役がよく似合う

 映画『ミュジコフィリア』で主演を務める井之脇海。音楽への反発心や、天才作曲家の兄への葛藤を抱えながら、天性の音楽の才を垣間見せる漆原朔を演じている。

 舞台は京都の芸術大学。朔はひょんなきっかけで現代音楽研究会に入るが、そこには確執深い異母兄・貴志野大成(山崎育三郎)も所属していた。最初は「入部しない」と言い張っていた朔だったが、未知の現代音楽の魅力に引き込まれ……。

 「現代音楽」が『ミュジコフィリア』のテーマの一つだが、朔自身は美術学部の人間だ。おそらく、天才作曲家として名を馳せ、自分を手放した父・貴志野龍(石丸幹二)や兄への複雑な思いによって、自らを音楽から遠ざけてきたのだろうか。しかし、いざ音楽に触れることが許される環境に入ってみると、どうしても音楽から離れられなくなるのが、彼の宿命なのだろう。

 彼には、美術学部に入学するくらいのその分野の実力を持ちながら、長らく触れていなかったピアノをすんなりと即興的に弾きこなす実力もある。そして、いわゆる正当な音楽教育を受けてきた音楽学部生が持ち合わせていないような、荒さやもろさを伴った推進力も持ち合わせている。決して優等生ではないのだが、どこか光る味を感じさせる、文字通りで唯一無二の音楽家なのだ。

 井之脇海は朔という人間について、「音楽家というより、音楽が大好きな少年だと思った」と話している(参照:現代音楽をめぐるヒューマン映画『ミュジコフィリア』で描かれたリアルさとは)。確かに、井之脇海の演じる朔に、音楽家然とした姿勢は垣間見えない。

 では、「音楽家然とした人間」とはどんな人物を指すのだろうか。作中のキャラクターならば、自らの音楽に絶対的な自信を持つ大成だろう。音楽のために自ら孤高に向かう姿には、音楽にすべての身を捧げる覚悟を感じる。「音楽一筋」な姿に、王道の音楽家像を感じる。一方朔は、辛い過去から音楽に近づききれない。音楽に身を捧げるというよりも、逆に音楽に愛されてしまった人間だとも言える。

 また、過去には井之脇海本人が「王道の音楽家」を演じたことがあった。2017年に放送された、NHK 連続テレビ小説『ひよっこ』だ。井之脇海は、主人公のみね子(有村架純)の職場のコーラス部指導者・高島雄大を演じた。

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