井之脇海は音楽に愛される役がよく似合う 『ミュジコフィリア』で滲み出る誠実さ

井之脇海は音楽に愛される役がよく似合う

 雄大は、みね子の同僚である秋葉幸子(小島藤子)の婚約者でもある。しかし、働いた給料をすべて音楽に注ぎ込むなど、音楽に一筋すぎるゆえによく彼女を怒らせるが、本人はかなり無自覚だ。しかし鈍感さとは裏腹に、コーラスの指導のときは、いたって真剣。そして無事に幸子と結婚できたのに、彼女を置いて海外留学してしまうほどに、音楽に取り憑かれている。思わず「こういう芸術家っていそうだよな」と感じてしまう。

 『ミュジコフィリア』と『ひよっこ』、違うタイプの音楽人を演じた井之脇海。しかし共通しているのは、井之脇海の演技に漂う「まじめさ」「誠実さ」だ。井之脇海はサスペンスからヒューマンドラマまで幅広い役をこなしてきたが、その瞳の奥には、彼の濁りない実直さが垣間見える。

 その誠実さは、『ミュジコフィリア』の朔にかなりマッチしている。初恋相手の谷崎小夜(川添野愛)を大切に思い続けたり、複雑な思いを抱える大成や友人の浪花凪(松本穂香)とぶつかったりと、一人ひとりや音楽に真剣に向き合う姿勢が、ただ「音楽が大好きな少年」には留まらない、人間味あふれる音楽家像を形にしたのだと言える。

 ちなみに、井之脇海は子役時代に『トウキョウソナタ』に出演し、すでに天才ピアノ少年を演じていた。不安定な思春期を過ごしながらも、ピアノという存在に希望を抱く少年だった。『トウキョウソナタ』と『ミュジコフィリア』は、作風も物語も役柄もまったく違うが、『トウキョウソナタ』の続・井之脇海を楽しむために『ミュジコフィリア』を観るという鑑賞方法も、なかなかに楽しめるのではないだろうか。

■公開情報
『ミュジコフィリア』
全国順次公開中
出演:井之脇海、松本穂香、川添野愛、阿部進之介、縄田カノン、多井一晃、喜多乃愛、中島ボイル、佐藤都輝子、石丸幹二、辰巳琢郎、茂山逸平、大塚まさじ、杉本彩、きたやまおさむ、栗塚旭、濱田マリ、神野三鈴、山崎育三郎
原作:さそうあきら『ミュジコフィリア』(双葉社刊)
脚本・プロデューサー:大野裕之
監督:谷口正晃
主題歌:松本穂香「小石のうた」(詞・曲:日食なつこ)
主題ピアノ曲:古後公隆「あかつき」「いのち」
チーフ・エグゼクティブ・プロデューサー:柴田真次
制作:フーリエフィルムズ
製作幹事:劇団とっても便利
配給:アーク・フィルムズ
特別協賛:伊藤園
協賛:キャビック、お弁当のいちばん、小室整形外科医院
後援:京都市
特別撮影協力:京都市立芸術大学
2021年/日本/113分/シネマスコープ
(c)2021 musicophilia film partners (c)さそうあきら/双葉社
公式サイト:musicophiia-film.com
公式Twitter:@musicophilia_21
公式Instagram:@musicophilia_21

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる