日米ホラー映画はどちらが怖いのか “刹那的スリル”と“持続可能な恐怖”

 驚かされるのを楽しむか、穢れに触れたいのか……。

 ハロウィンの季節がやってきた。恐怖を楽しむために、ホラー映画を鑑賞しようと考えている人も多いだろう。

 ところで、あなたはホラー映画に何を求めているだろうか。日常では得られないスリルを刹那的に楽しみたいのか、それとも持続可能な恐怖を感じたり、新たな視点を得たいのか……。

 スリルを楽しみたいのならハリウッドホラーを、持続的な恐怖を感じたいのならジャパニーズホラーをおすすめする。なぜならそこには存在目的とアプローチの違いがあるからだ。

 このコラムでは、ハリウッドホラーとジャパニーズホラーのビジュアルや見せ方の違いなどを深掘りしていく。

恐怖とは楽しむもの

 ホラー映画と言っても、そのサブジャンルは多岐にわたる。モンスター系、ゴースト系、スラッシャー系、スプラッター系、拷問系、サスペンス系、最近だと社会問題を投影させた社会派ホラー系がトレンドだ。

 ところがどんなジャンルであれ、そこにはある共通点がある。それは、観客が、劇場で座席から飛び上がるほどの恐怖を楽しみたいと思っていることだ。

 飛び上がるほどの恐怖は、主にジャンプスケアで実現する。大きな音や、キャビネットを閉めた瞬間に殺人鬼の顔が現れる、アレだ。観客は「くるぞ、くるぞ」とその瞬間をはかり、期待通りのタイミングなら「やっぱり来た。自分が考えた通りだ」とニヤリとし、わかっていたにもかかわらず驚かされたら「こりゃ相手の方が一枚上手だ」と喜ぶ。

 ホラー映画初心者がジャンプスケアシーンで椅子から飛び上がるほど驚いているのを見れば、観客は笑い、良いリアクションを見れたことを喜ぶのだ。

派手なビジュアルが求められるハリウッドホラー

 作る側も観る側も、恐怖を楽しむものと認識しているため、ビジュアルは登場人物が恐怖に慄く派手で激しいものが多く、絹を裂くような悲鳴が歓迎される。ハリウッドのホラー映画に「叫びの女王」が欠かせないのはそういう理由だ。

 極限まで目を見開いて顔を歪ませるために、ホラー映画の主役、つまりモンスターも恐ろしいビジュアルが求められる。『13日の金曜日』シリーズのジェイソン・ボーヒーズや、『エルム街の悪夢』シリーズのフレディ・クルーガー、『ハロウィン』シリーズのマイケル・マイヤーズは、実際に見かけたら腰が抜けるほど恐ろしいだろう。叫びたいけれど叫ぶことができない、そんなシーンを作るためにハリウッドではモンスターのビジュアルは重要視され、より派手に、よりグロテスクにが求められてきた。

A Nightmare on Elm Street (2010) - Original Theatrical Trailer

恐怖とは恐ろしいもの

 一方で、日本のホラーには派手さがなく、恐怖をエンタメ化させずに恐怖として描く。だから、恐怖が見た人の脳や心、目を侵食し、時にその後の行動まで変化させる。筆者は、ジャパニーズホラーの怖さを「持続可能な恐怖」だと考えている。では、なぜ日本のホラーはそんなに怖いのか。

 その答えは、小野不由美著『残穢』という小説にあるような気がする。『残穢』は、ある土地で起こった忌まわしい過去が後世にも影響を与え続けることを描いた小説であり、それを原作とした映画だ。この作品の中で「穢れに触れる」という言葉が出てくる。簡単に書くなら、死者の強い怨念に触れ、自分も恐怖に飲み込まれていくことだ。日本のホラーは、「穢れに触れる」ものが多い。そして、物語はモンスターの強い怨念にフォーカスされる傾向がある。

 『リング』や『呪怨』、『仄暗い水の底から』、『着信アリ』はその代表とも言えるだろう。『リング』の貞子は、超能力を周囲から理解されずに井戸に放り込まれて生涯を終える。井戸に放り込まれても絶命することができず、井戸のそこで絶望を感じながら数十年間生きたらしい。その恨みたるや、想像するのも恐ろしい。

 『呪怨』の伽椰子は、夫に拷問されたのちに殺害され、ゴミ袋に入れられ天井裏に放置された。学生時代に好意を寄せていた男性にストーカー行為をしていたことが発端となって殺害された伽椰子は、死後も非常に粘着質な性格となり、生前住んでいた家を訪れた人々を容赦無く襲う。

 『仄暗い水の底から』と『着信アリ』も、登場人物が悲惨な運命を遂げるのは、死者の怨念に触れてしまい、取り込まれてしまったからだ。怨念や穢れがどれほど恐ろしいか。叫ぶ恐怖は存在しなくとも、万が一引っ越した先が、入学した学校が、訪れたビルが呪われた場所だったら触れてしまう可能性がある。日本のホラーには、常に自分と重ね合わせて考えさせる要素があるのだ。

 恐怖の対象はあくまで怨念や残留思念なので、恐怖の対象は実体化したグロテスクなモンスターである必要はない。

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