『犬鳴村』はただ絶叫するだけのホラー映画ではない 描かれた“真の恐怖”に迫る

『犬鳴村』で描かれた“真の恐怖”とは

 「Jホラー」の旗手として国内外に名を馳せる清水崇監督の映画『樹海村』の公開を記念して、同じく清水監督が撮った『犬鳴村』(2020年)の地上波放送が、各局においてそれぞれの日程で行われている。東京では2月10日深夜、北海道では12日深夜の予定だ。

 本作『犬鳴村』は、興行収入14億円超えを達成したスマッシュヒット作品。ここでは、そんな本作の内容を振り返り、描かれた真の恐怖とは何かを考えていきたい。

 全国に「心霊スポット」なる場所は数多く存在するが、そのなかで最も恐れられている場所の一つが、福岡県の犬鳴山の近くに実在する「旧犬鳴トンネル」である。そこを通って異界に入り込んだ者たちがいるとか、周辺で事故が多発するとか、峠の電話ボックスに深夜電話がかかってきたり、女性の霊に追いかけられたりなどの恐ろしい話が広まっていて、TV番組で紹介されたり、稲川淳二などが怪異を語ったりすることで、全国的に有名な場所となっている。

 トンネルにつながっているといわれるのは、住民たちが惨劇に見舞われたという、古い時代から代々差別を受けていた村であり、現在は犬鳴ダムの底に沈んでいると噂されている。その話が本当なのだとしたら、旧犬鳴トンネルは呪われた過去への入り口になっているということになるだろう。村の前には「この先、日本国憲法通用せず」という立て看板が設置されていて、住民が襲ってくるという話もある。

 とはいえ、そのような村の噂を裏付ける証拠は全く存在しない。複数の集落がダムの下に沈んだのは確かなことだが、条件に合うような村は過去の資料でも見つけられないのだという。しかし、政府や自治体が記録を隠蔽しているという話もあり、怪談には反論を予想したような陰謀論めいた側面も存在している。

 時間や空間が混線するような表現といえば、思い出すのは清水崇監督を代表する『呪怨』シリーズである。惨劇が起きた呪いの家が磁場のように様々な人々を引き寄せ、呪いに触れた主人公は昼夜関係なく、そして屋内にいても野外にいても、気がつけば呪いの家の中にいて、惨劇の夜を体験することになるのだ。そんな不気味な世界観が描かれる『呪怨』シリーズはアメリカをはじめ海外でも評判となり、中田秀夫監督の『リング』シリーズとともに「Jホラー」を代表する作品となっている。

 本作の劇中でも、トンネルを抜けて惨劇のあった当時の村に足を踏み入れる場面があるように、まさに時間と空間が“人の想い”によってつなげられる現象が描かれる。本作のベースとなった犬鳴村の伝説は、まさに清水監督の真骨頂といえる題材なのである。三吉彩花が演じる主人公が、姿を消した人を捜して村の古ぼけた屋敷の中に入っていく流れは、時間と空間、物理現象が狂った悪夢を見ているかのような不気味さが味わえるのだ。この、過去と現在がぐるぐる回り続けるような、気の遠くなるような表現は、監督作『輪廻』(2005年)でも見られた。

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