実写なのにアニメ―ション? 『PUI PUI モルカー』から“ピクシレーション”を考える

『モルカー』からピクシレーションを考える

 2021年1月から放送開始された『PUI PUI モルカー』(以下、『モルカー』)が大人気である。

 本作は、テレビ東京系『きんだーてれび』にて毎週火曜日の朝に放送されているストップモーションアニメーションだ。各話2分ちょっとの短さながら、内容が濃い。モルモットを車にした「モルカー」の可愛さとどこかシニカルな視線で描かれた人間の行いのギャップが受けているのだろう。渋滞を引き起こしたり、銀行強盗をしたり、車からごみのぽい捨てをする人間たちの姿に、視聴者は「人間は愚か」との感想を漏らしている。

 本作の監督を務めたのは、2018年に東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻を修了したばかりの見里朝希。卒業制作として制作した『マイリトルゴート』が国内外で高く評価された逸材だ。

 本作はフェルト生地のパペットによるストップモーションアニメーション作品だが、一部生身の人間が登場するシーンがある。ご覧になった方はわかると思うが、人間がカクカクとした動きでコマ撮りのような動きをする。

 本連載はアニメーションと実写の境を引き直すことを目的としており、この技法は絶好の題材だ。そこで今回はこの生身の人間をアニメ―トする技法について考えてみたい。このテクニックは実写とアニメーション双方の特性を含むことから両者の境界の曖昧さを示唆してくれるのではないか。

実写素材をコマ撮りするアニメーション技法

 『モルカー』で用いられているこの技法はピクシレーションと呼ばれる。これは生身の人間をコマ撮りする技法のことだ。

 定義を明確にしてみよう。現代美術用語辞典によれば、ピクシレーションとは「人間をコマ撮りすることでアニメーションを作る技法。アニメーションは一般的にドローイングや人形などの無生物を撮影することで運動を創造するが、ピクシレーションは人間をコマ撮りの対象とすることで、高速度撮影やコマ抜きとは違ったかたちでそれを行なう」とある。(※1)

 『モルカー』の生身の人間の登場シーンは実際にひとコマずつ撮影しているのか、それとも通常の撮影映像からコマを抜いているのか、見ただけでは判別が難しい。一定の間隔で抜いているようにも見えるが、ここではとりあえずその真偽は棚上げにして論を進める。いずれにしても、通常の1秒間24コマの映像とは異なる動きを創造している点は変わりない。

 アニメーションとは、広く一般にイメージされているように、絵を動かすものだけを指すのではない。1950年代に「アニメーション映画運動」を先導した批評家のアンドレ・マルタンは、アニメーションの要件を絵であることではなく、コマ撮りによって様々な動きを作りだすことに求めた。故に、コマ撮り対象が絵や人形のような非生物でなくてもアニメーションとなりうる。(※2)

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