山田杏奈の“成長”が圧倒的な魅力に 『リラの花咲くけものみち』が描いた命のバトンタッチ

『リラの花咲くけものみち』が描いた命の連鎖

 春、夏、秋、冬ときて、そしてまた、春がくる。『リラの花咲くけものみち』(NHK総合)は、春から始まった。北農大学獣医学群入学のため、「リラの花」が咲き誇る前の「けものみち」を祖母・チドリ(風吹ジュン)と歩いていた主人公・岸本聡里(山田杏奈)は、全3話という連続ドラマとしては限られた時間の中で、目を見張るほどの成長を遂げていった。

 第1話で夏菜(石橋静河)がチドリに「動物が大好きなら人も大好きってことですし。人も動物ですよね」と言う場面があるが、まさに本作は、動物や樹木、草花、人間の営みを通して、生と死の循環、聡里が言うところの「命のバトンタッチ」を同列に、並行して描くことで、大地をしっかりと踏みしめ、その土地に根付いて生きていくと決める少女の成長を見事な筆致で描いた。

 土曜ドラマ『リラの花咲くけものみち』は、第45回吉川英治文学新人賞を受賞した藤岡陽子の同名小説(光文社)を原作に、朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)、『#リモラブ 普通の恋は邪道』(日本テレビ系)、『満天のゴール』(NHK総合/藤岡陽子原作)の水橋文美江が脚本を手掛けた連続ドラマだ。北海道の広大な大地の中で獣医師を目指す学生たちの葛藤やバックグラウンドをつぶさに描いた原作小説は、彼ら彼女たちが向き合わなければならない動物たちのシビアな現実を圧巻のリアリティで書き記した作品でもある。さらには、一時は学校に行けず引きこもり生活を送っていた聡里が、祖母・チドリの助けを借りて、過酷な家庭環境から逃れ大学生活を送り、祖母の死を経て、大動物専門の獣医師となり、愛する人・残雪とともに生きていく決意を固めるまでの人生が濃密に描かれている。それをいかに「全3話」にまとめたのか。

 各章が北海道の大地を彩る美しい花々の名前に因んでいる原作小説の魅力を、そのまま北海道の広大な草原の景色という実際の映像として見せるのはまさにドラマにしかできない手法だろう。また、人間たちが織りなすドラマの間に挟み込まれるかわいらしいキツネやウサギ、鳥たちの光景は、それだけで目を奪われるし、何よりそれらが示す生命力そのものが本作の主軸となっている。

 そんな生命力溢れる大地の中で、犬の救助のため白いワンピースを汚すことも厭わず走り、「傍からはそんなふうには見えないでしょうが、心の中ではうわーとかうひょーとかヤバーッとか、いろんな感情が叫びまくってます」という、チドリに宛てたメッセージの形式をとったモノローグを背景に、まだ感情を表にうまく出し切れない聡里の、動物を前にした抑えきれない興奮を描きとった本作。それは、北海道の雪景色が見事に映える、山田杏奈が演じる少女の魅力でもあった。

 そしてあっという間に少女は大人になる。祖母・チドリの死、父・孝之(竹財輝之助)との決別。さらに、かつてのトラウマでもあった子馬・子牛の出産と、過去の自分と重ね合わせずにはいられない農場の娘・七海(大石愛陽)との対峙と、畳みかけるように描き出される、彼女が前に進むための通過儀礼の数々。たとえチドリという「メッセージの送り主」を失ったとしても、残雪(萩原利久)や綾華(當真あみ)ら仲間を得た彼女は、自らの感情を自在に示すことができるため、もうモノローグを必要としない。また、ドラマオリジナルの展開であるチドリの死後に見つかったオムレツのレシピのメモを聡里が読み上げて涙するエピソードは、そのオムレツが今は亡き母・有紀子(安藤聖)と祖母・チドリの命と思いを繋ぎ、これから生きていく彼女を生かす養分になってそこに存在し続けることを告げていた。それはまさに彼女がこれから「見届けたい」と思う「命のバトンタッチ」そのものだ。

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