『エール』いまだからこそ描けた“戦場のリアル” チーフ演出・吉田照幸に裏側を聞く

『エール』CD吉田照幸に裏側を聞く

 時代は昭和19年、主人公・裕一(窪田正孝)が戦地への慰問のためビルマへと到着した朝ドラ『エール』(NHK総合)。ひとりの主人公の一代記を描く朝ドラにおいて、これまでも“戦争”は描かれてきたが、戦場が描かれることはほとんどなかった。そんな中で『エール』第18週「戦場の歌」では、“戦争映画”と見紛うほどのリアルな戦場が映し出される。

 第18週では第15週で出征した藤堂先生(森山直太朗)と裕一が戦場で再開。本作の中でも屈指の名シーンが生まれるのだが、当初想定していたよりも藤堂の出演シーンは多くなったという。その理由について、チーフ演出・脚本を務める吉田照幸は次のように語る。

「ミュージシャンとして活躍されている森山さんなら裕一の先生として、音楽の才能を見出す人物として、説得力を持たせてくれるのではないか、というのが当初のオファーの意図でした。でも、撮影を重ねていくうちに、森山さんがミュージシャンであることを忘れるほどお芝居が素晴らしく、物語の中でもどんどん重要な存在になっていきました。森山さんが藤堂先生として生きてくれたからこそ、本当に素晴らしいシーンを撮影することができました」

 第18週の撮影が行われたのは緊急事態宣言下の自粛期間が明けた後。新型コロナウイルス感染拡大防止もあり、撮影方法も大きな変更を余儀なくされた。脚本上も変更を加えたそうだが、結果として“いま”とリンクする内容になったという。

「戦争について書いてはいたものの、実際に体験したわけではないこともあり、抗えない悲劇というものに対してどこか現実感がない部分もあったんです。でも、世界中、日本中の人がこの数カ月で理不尽な現実に直面しました。当たり前にあったものが消えてしまう、個人では抗えないものに人生が動かされてしまう、その点は書き直した台本にも改めて込める形にしました。コロナ禍明けの撮影だったこともあり、キャスト・スタッフ全員に覚悟のようなものがありました」

 第86話、第87話では、ビルマに到着した裕一が自身の日記を朗読する形でのナレーションが多く入る。この演出をはじめ、第18週は裕一の心の変化が映し出されていく。

「裕一が現地の子供たちに音楽を教える姿など、ナレーションで語っている部分も実際に撮影していたんです。でも、ナレーションのみにすることによって、裕一の内面により焦点が当たるなと感じました。結果、戦場での体験を経たあとの変化がより明確になるなと。戦場を経験した後と前の裕一の変化には大きな違いがあります。窪田さんはかなり難しかったと思いますが、裕一の心に刺さった棘を見事に表現してくれました。戦場のシーンに関しては、リハーサルもなく、完全に本番一度限りの撮影を行いました。窪田さんの集中力は凄まじく、実際に戦場を体験した裕一の心そのものになってくれたと思います。第90話の最後に、裕一がとある台詞を口にします。何度も書き直して考えた台詞だったのですが、窪田さんは自分も予想だにしなかったトーンでその台詞を発してくれたんです。結果としてこれしかないというものになったのですが、書いているときはまったく想像できなかったものでした。窪田さんが裕一として役に入り込んでその真意を解釈してくれたからこそですね」

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