『エール』『純情きらり』『とと姉ちゃん』など、朝ドラで“戦争と芸術”はどう描かれた?

朝ドラで戦時中の“芸術”はどう描かれた?

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『エール』は17週からかなりシリアスになってきた。裕一(窪田正孝)が軍の要請で戦時歌謡をたくさん作ることに反対する人も現れ、当人もほんとうにいいのか悩みはじめる。

 自分では何もできないから、祖国のためにがんばって戦っている人を音楽が力づけることができるのであれば、せめて音楽を作ることで応援したいという一心で、裕一は曲づくりにのめり込んでいく。

 歌謡曲では邪魔になった西洋音楽の基礎が、戦時歌謡には生かされ、裕一の曲は多くの人に愛される。兵士を戦地に送り出すにしては哀調を帯びているとはいえ、それが勇ましい歌詞の裏側にある哀しみや心配な気持ちをくすぐるのだった。

 現在102作作られている朝ドラでは、戦時中に青春時代を過ごしたヒロインは31人もいて、それだけヒロインの戦争体験が描かれている。若干不謹慎かもしれないが、疎開や国防婦人会、玉音放送、戦後の闇市などの描写は朝ドラあるあるのひとつである。ヒロインの家族や愛する人が戦地に出向き、戻って来たり来なかったり、その悲喜こもごもがドラマの見どころにもなる。

 以前、朝ドラを3作書いた脚本家・岡田惠和に取材をしたとき、朝ドラにおける玉音放送の書き方に作家の個性が出ると聞いた。終戦――しかも敗戦を伝える天皇陛下のお言葉を聞く場面では、たいてい皆、神妙に聞いているが、男性は一様に無念そうな表情をし、女性は少し淡々としていることが多い。印象的な朝ドラは『カーネーション』で主人公・糸子(尾野真千子)は放送のあと「ご飯にしよう」とけろりと台所に向かう。どんなときでも生活――食事が大事であることがさりげなく描かれたいい場面である。『とと姉ちゃん』ではヒロイン(高畑充希)が抑圧されていたものがなくなったとばかり大喜びする描写になっていた。

 女性が主人公であることが多い朝ドラでは、夫や息子を戦争で亡くすなど、戦争の被害者の立場が描かれることが多い。よって、与謝野晶子の「君死にたもふことなかれ」という言葉がよく登場する。現在、夕方に再放送中の『純情きらり』では、主人公(宮崎あおい)の友人(松本まりか)が兄の出征時、この言葉の書かれた手ぬぐい(?)を掲げて警察に咎められる場面があった。そんな彼女も戦争が本格化していくと、編集者として、作家を連れて戦地に取材に向かうようになる。状況が人を変えることを描いているのだ。

 『エール』は男性主人公で、戦争に加担する側が描かれる。裕一は、人を励ますことができると歌の力を信じて、曲作りによって軍に協力する。そんな彼を作曲家仲間・木枯(野田洋次郎)や、鉄男(中村蒼)は心配する。彼らは戦時歌謡作りに積極的でない。裕一の弟子志望から音の妹・梅(森七菜)の夫となった五郎(岡部大)は「先生には戦争に協力するような歌を作ってほしくありません。先生には人を幸せにする曲を作ってほしいんです」と哀願する。

 最初は彼らの言うことに同意できない裕一だったが、慰問先の体験で、徐々に考え方が変わっていく。それがのちの名曲「長崎の鐘」誕生の萌芽になる。そのためにも戦争描写をしっかり描いておきたいと、チーフ演出家であり、第17、18週の脚本を書いた吉田照幸は語っている。

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